掻合かきあわ)” の例文
水しやくひの娘は、いた玉子たまごを包みあへぬ、あせた緋金巾ひがなきん掻合かきあわせて、が赤いうおくわへたやうに、みよしにとぼんととまつて薄黒い。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
叔父、甥、姪などの交換とりかわした笑声は、客の耳にもむつまじそうに聞えた。お延は自分が笑われたと思ったかして、袖で顔を隠した。お俊は着物のえりを堅く掻合かきあわせていた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……そこで、たもとから紙包みのを出して懐中ふところへ入れて、おさえて、こう抱寄せるようにして、そして襟を掻合かきあわせてくれたのが、その茱萸ぐみなんだ。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
繁は皆の見ている前で父に逢うことをきまりの悪そうにして、少年らしく膝を掻合かきあわせていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しずくで、不気味さに、まくっていた袖をおろして、しっとりとある襟を掻合かきあわす。この陽気なればこそ、蒸暑ければ必定雷鳴が加わるのであった。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ほんとに繁ちゃんは子供のようじゃないのね」と節子は自分の懐を掻合かきあわせるようにした。「だからあなたは大人と子供の合の子だなんて言われるんですよ——コドナだなんて」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お千世が、その膝を抱くように附添って、はだけて、のすくお孝の襟を、掻合かきあわせ、掻合せするのを見て、清葉は座にと着きあえず、扇子おうぎで顔を隠して泣いた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ああ、もうお済かい」と奥様は起直って、ふところ掻合かきあわせながら、「お前、按摩あんまさんをしてくれるとお言いなの。今日はね、肩のところが痛くて痛くて——それじゃ、一つ揉んで見ておくれな」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
見てもすごい、早やそこへ、と思って寝衣ねまきの襟を掻合かきあわせると、その目当のねやで、——確に女の——すすり泣きする声がしました。……ひそひそと泣いているんですね。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こう言いながら、白い単衣ひとえの襟を掻合かきあわせた。彼女は顔色もあおざめていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「去年、旦那が死歿なくなって、朝夕淋しくお暮しだろう。慈善だの、何だのと、世間体はよしにして、情夫いろおとこでも御稼ぎなさいな。私やもう帰ります。」と、襟掻合かきあわして立上り
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
年老いた地主は白髪頭しらがあたまを真綿帽子で包みながら、うちの内から出て来た。南窓の外にある横木に倚凭よりかかって、寒そうに袖口そでぐち掻合かきあわせ、我と我身を抱き温めるようにして、辰さん兄弟の用意するのを待った。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
思わず骨も砕くるばかり、しっかとすがって離れぬのを、かして、帯をしめさせて、胸を掻合かきあわせてやって、落散った駒下駄を穿かせて、手を引いて交番を出ようとする時
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ナイナイしましょう」とお雪は懐を掻合かきあわせながら子供に言った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
手前も胡坐あぐらいて、火をほじりほじり、仔細しさいを聞きましても、何も言わずに、恍惚うっとりしたように鬱込ふさぎこみまして、あの可愛げに掻合かきあわせた美しい襟に、白う、そのふっくらとしたあご附着くッつけて
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「さアさ」とお種は浴衣ゆかたえり掻合かきあわせながら、家中を見廻して
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
怨めしそうに六蔵のおもてを視て、さしうつむいて、えり白く、羅の両袖を胸にひし掻合かきあわす、と見ると浪が打ち、打ち重って、裳を包み、帯を消し、胸をかくし、島田髷の浮んだ上に、白い潮がさらり
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少年は言淀いいよどみぬ。お貞は襟を掻合かきあわせ、浴衣の上前を引張ひっぱりながら
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、小次郎法師の旅僧たびそう法衣ころもの袖を掻合かきあわせる。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)