こしらえ)” の例文
時にお登和さん、私はこういう話を聞ました。東京のある氷店の主人が大層アイスクリームを上手にこしらえ平生へいぜい客に自慢するそうです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
お前さん、いま結立ゆいたてと見える高島田の水のりそうなのに、対に照った鼈甲べっこう花笄はなこうがい花櫛はなぐし——このこしらえじゃあ、白襟に相違ねえ。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「云えないでしょう、お祖父じいさまを殺したのは貴方あなたたちです。脅迫状の話などこしらえて他人の事のようにごまかしたうえ、お祖父じいさまを殺してお金を——」
海浜荘の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
松助の大友左衛門、翫太郎の荒巻耳四郎は共に小町の雨乞を妨ぐる敵役なるが、こしらえ古風にて好し。
脇差わきざしも有用の物ともおもわずや、かざりの美、異風のこしらえのみを物数寄ものずき無益の費に金銀を捨て、衣服も今様いまようを好み妻子にも華美風流を飾らせ、遊山ゆさん翫水がんすい、芝居見に公禄を費し
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
髪は文金ぶんきん帷子かたびら御納戸地おなんどぢ大名縞だいみょうじまといふこしらえかせぐとはうそまことか、肉置ししおき善き体ながらどちらかといへば面長おもながの方なるに、杯洗はいせんの上にうつむいてどつちが円いかしらなどとはどういふ心か
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
燃えさしをゆかの上に投げ、また一本摩り、莨を吸付けながら、どうでもいいというようなる風にて戸の方を見る。○モデルむすめ。質素なる黒の上着に麦藁帽子むぎわらぼうしこしらえにて、遠慮らしくしずかきたる。
幕僚をおこしらえなさい。そうすれば元帥は枕を高うしていられます。
もう一人の方は、山茶花さざんかと小菊の花の飛模様のコオトを着て、白地の手拭てぬぐいを吹流しの……妙なこしらえだと思えば……道理こそ、降りかゝる雪をいとったも。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
出のこしらえは弁慶の単衣ひとえに三尺を締め、手拭を浅く輪の様にしてむこう鉢巻をなし、とめをやや左に寄せV字状になし、右の偏袒かたはだぬぎになりて白木綿の腹巻を見せ、裾を高く尻端折し、袖をたくし上げ
この時権十郎の紀伊国屋文左衛門が暖簾をかかげて出る。そのこしらえは唐桟の羽織を著、脇差わきざしを差し駒下駄こまげた穿いている。背後うしろには東栄が蛇の目傘を持って附いている。合方は一中節を奏する。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
久右衛門は胡麻塩頭ごましおあたまをしているのに、この爺いさんは髪が真白である。それでも腰などは少しも曲がっていない。結構なこしらえの両刀をした姿がなかなか立派である。どう見ても田舎者らしくはない。
じいさんばあさん (新字新仮名) / 森鴎外(著)