手蹟)” の例文
「なんだ……池さまへ、藤より……。大師流だいしりゅうのいい手蹟だ。こいつ文づかいもすると見える。とても陸尺なんぞの書ける字じゃねえ」
しかし私の手蹟じゃ不味まずいから長州の松岡勇記まつおかゆうきと云う男が御家流おいえりゅうで女の手にまぎらわしく書いて、ソレカラ玄関の取次とりつぎをする書生に云含いいふくめて
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「もうたのか、昨日きのふいたんだな」とひとごとの様に云ひながら、封書の方を取りげると、是は親爺おやぢ手蹟である。二三日前帰つてた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「まあ、さういふな川上、お前の手蹟のいいのを見込まれたのが因果ぢやと思へ。百姓にやもつたいない手蹟ぢやけに。」
一過程 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
ジョージ、お前の手蹟かい? まあ、お前はすっかりここにいる船員の中でのかしらになってるんだな。お前は次にゃ船長せんちょになれるぜ、きっとだよ。
それとよく似てゐるのは、内藤湖南氏で、氏も犬養氏同様手蹟が巧いので、方々から額やら掛物やらの揮毫を頼みに来る。
翌々日かなりしっかりした手蹟で安着の知らせと行く先の在所と両親の言伝を書いたさきの手紙がとどいた。
蛋白石 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「ええ、間違いありませんわ。あたし、京子さんて方、割に字がつたないのねと思ってみていると、あのひとがわざと手蹟を変えたのよと言ってお笑いになったから、よく覚えて居りますわ」
「なるほど、ばあさんの手蹟だ。児童こどもにも読めるように、仮名かなまで振ってあら」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうなれば、最初からやり直しだ。お品さんは手蹟が良いから、御苦労でも去年の暮からさらわれた人の名と、年と、町所まちどころと商売とを調べ上げて、さらわれた日と時刻と、出来れば天気と手口を
「なにより不審はそのこと。むくろは誰が何と申しましょうとも、見ず知らずの他人でござりますのに、どうしたことやら、書置の文字はまぎれもなく伜の手蹟でござりますゆえ、手前共もひと方ならず不審に思うているのでござります」
「エポニーヌの手蹟だ。畜生!」
「もう来たのか、昨日着いたんだな」と独り言の様に云いながら、封書の方を取り上げると、これは親爺おやじ手蹟である。二三日前帰って来た。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
紅梅こうばい入りの薄葉うすように美しい手蹟で、忠助にかぎってそんな大それたことをするはずがないと、そのひとつことばかり、くりかえしくりかえし書いてあった。
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
今夜あたりはことによるとてゐるかも知れぬ位に考へて、下宿へ帰つて見ると、果して、母の手蹟で書いた封筒がちやんと机の上に乗つてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
……大師流で手蹟はいいが、見てくればかりで品がねえ。筆蹟は人格を現すというが、いや、まったく、よく言ったもんだ、こればっかりは誤魔化ごまかせねえの。
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「どうも何ですな。昔の人はやっぱり手蹟が好い様ですな」と御世辞を置き去りにして出て行った。婆さんは先刻さっきから暦の話をしきりにていた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが日にやけて、灰色になったベッドのそばの壁紙に、女の手蹟でいろいろな落書がしてある。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
うもなんですな。むかしひとは矢っ張り手蹟い様ですな」と御世辞を置きりにして出て行つた。婆さんは先刻さつきからこよみはなしをしきりにてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一口にうた手蹟マラというが、公卿どもは、和歌と書道と女色のほか、楽しみがないゆえ、うようよと子供ばかりこしらえおる。知嘉というのは、何十人目の姫か知らぬが、烏丸では相手が悪い。
奥の海 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
今夜あたりはことによると来ているかもしれぬくらいに考えて、下宿へ帰ってみると、はたして、母の手蹟で書いた封筒がちゃんと机の上に乗っている。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その一枚には百円受取った事と、向後こうご一切の関係を断つという事が古風な文句で書いてあった。手蹟は誰のとも判断が付かなかったが、島田の印は確かにしてあった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「これも御父おとっさんの手蹟だ。ねえ」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)