手洟てばな)” の例文
その為に敢然正筆を使うと、——彼は横を向くが早いか、真紅に銀糸のぬいをした、美しい袖をひるがえして、見事に床の上へ手洟てばなをかんだ。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
らおめえ、手洟てばなはかまねえよ」といつたりがら/\とさわぎながら、わら私語さゝやきつゝ、れた前掛まへかけいてふたゝめしつぎをかゝへた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その片方の男は遊び人ふうで、年も女より五つ六つ若く、ちんと手洟てばなをかむところなどはなかなかあくぬけがしていた。
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
重吉は手洟てばなをかむ癖があった。その手で米をといだりするというので、公一は重吉の挙動から目をはなさず、飲食物の支度に手をふれることを禁じた。
復員殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
手洟てばなをかんで、指についたはなをそこらへなすりつけるのは平気になっていた。上に臍のついた黒い縁なし帽子をかむり、服も、靴も、支那人のものを着けている。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
さっきの赤直垂あかひたたれの小僧が、ちんと、手洟てばなをかみながら、二人のあいだを、威張って通って行った。そして、小馬鹿にしたような眼を振向けて、ヘヘラ笑いを投げた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここでもやはり手洟てばなをかんだ手でじかに椀をぬぐってその椀に茶を注いでくれます。それを嫌がって飲まぬとむこうできらいますから忍んで飲まねばならぬような始末。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
合間に手洟てばなをかんだりしながらゆっくり重いビームをかつぎあげて運ぶ動作を、しばらくこっち側の歩道に佇んで見ていてから伸子は、ブロンナヤ通りへ歩いて行った。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
手洟てばなをかむもあり、いずれ劣らぬ浜育ちの、おのがじし声高なる子供自慢、毛並から眼の色、耳の穴まであげつらって、これぞ今日の第一等賞プレミエ・プリと、人はいえばわれもまた、そうはならぬと
先達はひーんと手洟てばなをかみ、取りつくろうように老人をいたわった。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
隆二が答えると、男は手洟てばなをかんで、そんなところで火をいちゃあなんねえ、と訛りの強い言葉で云った。
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
子奴等こめらことつて、手洟てばななんぞかんだぢやかねえでろえ、おめえ勿體もつてえねえから」ばあさんめしつぎをひだりかゝへてつたとき、かう圍爐裏ゐろりそばから呶鳴どなつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
蜘蛛六は、手洟てばなをひッかけるような顔してわらったが、何ぞ知らん、それから五十日、百日と日が経つうち、いつか猿はこの獄内で、ほんとに闇を照らす太陽になってしまったのである。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
源は、手洟てばなをかんだ。〔十七字伏字〕が土台から違うんだ。
ズラかった信吉 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
私が答えると、老人は初めからその答えを予期していたように、なんの反応もあらわさず、吸っていたタバコを地面でもみ消し、残りを耳にはさんでから、手洟てばなをかんだ。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
時にはチンと手洟てばなを放って、その雄弁をふるっている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私が答えると、老人は初めからその答えを予期していたように、なんの反応もあらわさず、吸っていたタバコを地面でもみ消し、残りを耳にはさんでから、手洟てばなをかんだ。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
手洟てばなをかむ。尻を叩く、大声たてて悪たれをいう。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
段平は頭のうしろをき、手洟てばなをかんで、薪を割るために裏へまわっていった。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)