あお)” の例文
そうすれば上段のへやに寝かして一晩あおいでいてそれで功徳くどくのためにする家があるとうけたまわりましても、全くのところ一足も歩行あるけますのではございません
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
噂というものは、こちらで、もみ消そうとするとかえってひろがり、こちらから逆に大いにあおいでやると興覚めして自然と消えてしまうものでございます。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
うちでは食卓の上に刺身だの吸物だのが綺麗きれいに並んで二人を待っていた。お兼さんは薄化粧うすげしょうをして二人のお酌をした。時々は団扇うちわを持って自分をあおいでくれた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼が世界における生活は、猛風悪浪の生活なりき、彼が家庭における生活は、春風百花をあおぐの生活なりき。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
お町は嬉しゅうございますから飛立つ程に思いましたが、しとやかにあおいで、ずっと横に這入らぬと蚊が這入ります。これが行儀の悪いものはそうは行きません。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
大風呂敷をもってあおぎおるを認め、猟師らはこれを見てただちに天狗なりと想像し、その風呂敷をもってあおぎおるは、必ずわれわれの上に魔術を施すに相違なかるべし
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
板倉は直ぐに海水帽を脱いで、それで蜂をパタパタあおぎ出しながら、応接間から庭へ追い払った。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
引上げられた少年達はほとんど気を失っていた。坑夫達は、彼等を地上に寝かし、あるものは自分達のボロ布であおぎ、ある者は自信あり気に揃って不思議な祈祷きとうをやり始めた。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
此方は、成るべく、彼を愕かさじと、徐々と、一尺引き五寸引き、次第に引き寄せしが、船前六尺ばかりにて、がばと水をあおりて躍り、綸の張り卒然失せぬ。逸し去りしなり。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
燕兵勢に乗じて営にせまり火をはなつ。急風火をあおる。ここおいて南軍おおいついえ、郭英かくえいは西にはしり、景隆は南に奔る。器械輜重しちょう、皆燕のるところとなり、南兵の横尸おうし百余里に及ぶ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
茶店に休んで、青竹の欄干にりながら、紺地に金泥で唐詩をった扇子で、海からの風の他に懐中ふところへ風をあおぎ入れるのは、月代さかやきあとの青い、色の白い、若殿風。却々なかなかの美男子であった。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
その人は白いだぶだぶの麻服を着て黒いてかてかしたはんけちをネクタイの代わりに首に巻いて、手には白い扇をもって軽くじぶんの顔をあおぎながら少し笑ってみんなを見おろしていたのです。
風の又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
駝象の大行列中に雄猴をつないで輿こしに載せ、頭に冠を戴かせ、輿側に人ありてこれをあおぎ、炬火きょか晶燈見る人の眼をくらませ、花火を掲げ、嬋娟せんけんたる妓女インドにありたけの音曲を尽し、舞踊、楽歌、放飲
玄関まで皆々みな/\お出迎いをいたし、殿様は奥へ通りおしとねの上にお坐りなされたから、いつもならば出来立てのおそなえのようにお國が側から団扇うちわあおぎ立て、ちやほやいうのだが
しかして、その風呂敷をもってあおぎおりしは、魔術を行うにあらずして、猟師の鉄砲を所持せるを見、己に向かって発砲せんことを恐れ、これをふせがんとの意に出でたるものなりという
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
春風百花をあおぐの好時節はほとんど人の夢想せざりしところなりといえども、地球が地軸を転じ、その軌道を奔るや、端なくこの時節に来たらざるべからざるがごとく、わが世界の歴史も
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「おい暑そうだ。少しあおいでやるが好い」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)