戸毎こごと)” の例文
よる戸毎こごと瓦斯がす電燈でんとう閑却かんきやくして、依然いぜんとしてくらおほきくえた。宗助そうすけこの世界せかい調和てうわするほど黒味くろみつた外套ぐわいたうつゝまれてあるいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
町家まちや戸毎こごとも、ひと頃よりは、よくなった。皆のふところ工合も、少しは富んできたかな?」と、ながめた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今まで素朴であった村邑むらむらが工夫という渡り物の来たためにアブク銭が落ち込むので、農家はいずれもなかば飲食店のようになり、善良なりし村家むらや戸毎こごとから酒気溢れ
小さなかねを鳴らして、片手に黒塗の椀をもって、戸毎こごと、戸毎に立って、経を唱え托鉢をして歩いた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
瞽女ごぜ村落むらから村落むらの「まち」をわたつてあるいて毎年まいねんめてもら宿やどついてそれから村落中むらぢう戸毎こごとうたうてあるあひだに、處々ところ/″\一人分いちにんぶんづゝの晩餐ばんさん馳走ちそう承諾しようだくしてもらつてく。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
また、区内の戸毎こごとに命じて、半年に金一を出ださしめ、貸金の利足にがっして永続のついえに供せり。ただし半年一歩の出金は、その家に子ある者も子なき者も一様に出ださしむる法なり。
京都学校の記 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
が、紅葵の傍、向日葵の花叢はなむらの中、または戸毎こごとの入口の前、背戸せどの外に出て、子供まじりに、毛深い男女のぽつんぽつんと佇んでいる姿を見ると、人種の血肉は争われないものだと観た。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
が、歩いてみると、それらしい屋敷も見えず、ここらあたりの、道のわるさや、戸毎こごとの不潔さといったらない。
二人ふたり追分おひわけの通りを細い露路ろぢに折れた。折れるとなかいへが沢山ある。くらみち戸毎こごとの軒燈が照らしてゐる。其軒燈のひとつの前にとまつた。野々宮は此奥にゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
長屋の端から、順に戸毎こごとを覗きこみ。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)