うさ)” の例文
その故に彼は外に出でてうさはらすにいそがはしきにあらずや。されども彼の忘れずねぐらに帰りきたるは、又この妻の美き顔を見んが為のみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
今もいろいろと思い悩まされた揚句あげくが、その思いだけを紙にうつすことによって、そのうさを晴らそうとしました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
付て物語りけるにぞ夫婦は旅のうさをも忘れ歩行あゆみもさして太儀たいぎに非ざれば流石は若き人心よき道連みちづれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
有合ありあう鏡台きょうだい抽斗ひきだしの、つげの小櫛もいつしかに、替り果てたる身のうさや、心のもつれとき櫛に、かかる千筋ちすじのおくれ髪、コハ心得ずと又取上げ、解くほどぬける額髪ひたいがみ、両手に丸めて打ながめ……
暴風雨の夜 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
彼女はその助言に耳を傾け、場合によっては、ごくおとなしい小娘のように、叱責しっせき真面目まじめくさって注意深く聞いた。それは彼女にとって、うさ晴らしでもあり、面白くもあり、支持でさえもあった。
坂は照る照る鈴鹿すずかくもる=といい、あわせりたや足袋たび添えて=と唱える場合には、いずれもつかれを休めるのである、無益むえきなものおもいを消すのである、むしろ苦労をまぎらそうとするのである、うささんじよう
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うさ慰むるわが身なり。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
拾ひてうさを遣らんとも
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
謂知いひしらずうるさしと腹立たれけれど、行懸ゆきがかりの是非無く、かつは難得えがたき奇景の地と聞及べば、少時しばしうさを忘るる事も有らんと、自ら努めて結束し、かの日よりおよそ一週間の後
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
うささんじよう、こひわすれよう、泣音なくねしのばうとするのである。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かかる浅ましきいかりを人に移さんは、はなは謂無いはれなき事なり、と自ら制して、書斎に帰りてなまじひ心を傷めんより、人に対してしばらうさを忘るるにかじと思ひければ、彼は努めてくつろがんとしたれども
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)