意嚮いこう)” の例文
単純素朴で古風な民謡のにおいのする歌である。「船はとどめむ」はただの意嚮いこうでなく感慨が籠っていてそこで一たび休止している。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
東京に移牒いちょうする意嚮いこうらしかったのですから、彼女の死に関する真相も遠からずハッキリして来る事と思いますが、それよりも先に小生は
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして養父から、善く働く作を自分の婿にえらぼうとしているらしい意嚮いこうもらされたときに、彼女は体がすくむほどいやな気持がした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
が、彼等は彼等自身のために、彼の意嚮いこうには頓着なく、ほとんど何事にも軋轢あつれきし合った。そこには何か宿命的な、必然の力も動いていた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
義昌よしまさほかお身内の意嚮いこう、たしかに信長承知はいたしたが、然るべき人質ひとじちなど、安土へ送り来ぬうちは、否とも応とも、即答いたし難い」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
親類に相談する必要もない、後から断ればそれで沢山だといいました。本人の意嚮いこうさえたしかめるに及ばないと明言しました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
奉天にある日本軍の意嚮いこうを計り兼ねて、錦州方面に踏み留まり、奉天に帰ろうとせず、形勢を観望していたので、奉天では、袁金凱を首長として
私が張作霖を殺した (新字新仮名) / 河本大作(著)
ガラッ八は早くもその意嚮いこうを察すると、よく馴れた猟犬のように素早く座をはずして、どこかへ行ってしまったのです。
その後の節子からの手紙で父はしきりに台湾の伯父さんの上京を促しているということなどをあつめ合せて見ると、そこに岸本は義雄兄の意嚮いこうを読んだ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
所謂躍進日本の他の一面としての文化紹介を欲する政府当局の意嚮いこうなどが、外務省文化事業部へ反響して、先ず国際文化振興会が半官的な組織で成立し
今日の文学の展望 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ゆき子は十日程前に当市の市参事会員橋本はしもと氏の紹介で、現在勅選議員で羽振の利く森本庄右衛門もりもとしょうえもんの次男から結婚の申込を受けた、善兵衛からゆき子の意嚮いこうを聞くと
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
京子は不安らしく新一の顔を眺め、その目を望月少佐に移して、少佐の意嚮いこうを確めようとした。新一の突飛な言動を、発熱による譫言うわごとではないかと疑ったのである。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
出版圏内の限られたことと、この際、衆俗の意嚮いこうと趣味を無視することのできない資本主義から、ます/\作品の商品化をよぎなくするものがあるのを考えるからである。
正に芸術の試煉期 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「それとてよくはござらぬな。しかし、大勢というものは、多数の意嚮いこうに帰するものでござる。天下は一人の天下ではなく、即ち天下の天下でござる、いや、帝の天下でござる」
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
両者の意嚮いこうの間には、あまりにもひどい懸隔けんかくがあるので、母は狼狽ろうばいした。チベットは、いかになんでも唐突すぎる。母はまず勝治に、その無思慮な希望を放棄してくれるように歎願した。
花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私は本より論壇の上にこそ紅葉と対敵したが、先方はどうあろうと私交上ではやはり親友のツモリでいたから、胸襟を開いて黒岩の意嚮いこうを話し、紅葉一身の利害のために黒岩との提携を勧説した。
他の者の意嚮いこう顧眄こべんしなければならない。それは今の自分のもはや堪え得るところではない。自分は自分のみに完成し、飽和する生活を建てたい。それこそ真に確実にして、安定せる生活である。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
その上で、断乎だんこたる処分に出ようとする意嚮いこうをほのめかした。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
お君の意嚮いこうくと
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
益々その範囲を拡大するという風評と図書課長談として同様の意嚮いこうの洩されたことは、事実指名をされなかった窪川夫妻などの執筆場面をも封鎖した結果になっている。
彼は早朝から、総支配人の角田を呼び出して、この様な意嚮いこうを伝えました。そして、即日、角田と二三の小者を従えて、県下一円に散在する、彼の領地へと旅立つのでした。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
然し、それまで領土にとどまって居れという千坂兵部の意嚮いこうはほぼ推察がつかないでもない。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
友人がお銀のことについて、笹村の意嚮いこうを確かめに来たのは、そんな騒ぎがあってから間もなくであった。それまでに二人はたびたび顔を合わして、そのことを話し合っていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ついては目下、当港(神戸)に停泊中の病院船、十字丸、三千二百噸の機関長の補充として御乗船願いたいが、御意嚮いこう如何いかがでしょうか。月給、百何十円。云々うんぬん……という孫悟空みたいな話だ。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
遙々はるばると辺土の防備に行く自分は、その似顔絵を見ながら思出したいのだ、というので、歌は平凡だが、「我が妻も画にかきとらむ」という意嚮いこうが珍らしくもあり、人間自然の意嚮でもあろうから
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
その日も一応電話をかけて、庸三の意嚮いこうを確かめてからやって来たのであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
また、伯耆守は、幕廷の意嚮いこうをうけて、間もなく自邸に引っ返した。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「啓さんも、あっちへの手紙にそんな意嚮いこうを洩しているらしいよ」
築地河岸 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
友達などにもその意嚮いこうを漏らしていた。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
親たちの意嚮いこうをも確かめるために、桂庵が請地のうちを訪れ、暮のもちにも事欠いていた親たちに、さっそく手附として百円だけ渡し、正月を控えていることなので、七草過ぎにでもなったら
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と、小次郎の身を自宅で世話をしたいらしい意嚮いこうを漏らすと
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お作はとにかくにみんな意嚮いこうがそうであるらしく思われた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「して、秀吉の意嚮いこうは?」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて二人はほぼ笹村の意嚮いこうをも確かめて帰って行った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
寄手の意嚮いこうは如何に。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)