悪気わるぎ)” の例文
旧字:惡氣
ただうろついている。源四郎はもとより悪気わるぎのある男ではない。祖母の態度たいど不平ふへいがあるでもなく、お政の心中しんちゅうを思いやる働きもない。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「おまえは、悪気わるぎのあるおんなではないが、そういって、三にん約束やくそくをしたのはほんとうか。」と、ほとけさまは、おんなにたずねられました。
ちょうと三つの石 (新字新仮名) / 小川未明(著)
悪くなさらないで下さいましな。ああいう変った方ですから、悪気わるぎで仰言ったのではございませんでしょうし、熱の加減もあったでしょうし……。
変な男 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
何しに来たつて、お前さんがとがめるやうに聞くから言ふんだが、何も其のうしよう、うしようといふ悪気わるぎはない。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「もう、旦那だんなさん、勘忍かんにんして下さい。ホンのこの坊ちゃん達のいたずらだ。悪気わるぎでしたのじゃありません。いい加減に、勘忍してあげておんなさい。」
納豆合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
別に悪気わるぎがあるという訳ではなく(悪気をもつほどの頭の働きはこの人に無いと、一般に信じられている。)
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
もう六十有余にもなる質朴の田舎おやじでげすから、まさか悪気わるぎのあるものとも思われぬので、お若さんも少しは心が落著おちつき、明白あからさまに駈落のことこそ申しませぬが
あるじの僧に悪気わるぎのないのは判っている上に、熊や狼のけものもめったに襲って来ないという。それでも叔父の胸の奥には言い知れない不安が忍んでいるのであった。
くろん坊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
僕たちはなにも悪気わるぎがあってするのじゃない。僕たちが君になんの危害を加えるつもりもないことを私は紳士としての、またフランス人としての名誉にかけて誓う。
エエ、わたしもね、お前さんの伯父さんを鉄砲で撃ったけれども、それはちっとも悪気わるぎがあってやったわけではなし、お前さんを欲しいばかりでしたことなのだよ。
「気の毒なことに、お関を助けるつもりでやった細工だ。最初はたいした悪気わるぎがなかったろう」
悪気わるぎはないほんのいたずらをなされたのであろうと、ここまでってまいったのでございます。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「僕、決して悪気わるぎがあって申上げたんじゃありません。師匠が笑って下さると思ったんです」
心のアンテナ (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
悪気わるぎられてたまるものか。第一僕の為めに運動をするものがさ、僕の意向も聞かないで、勝手な方法を講じたり、勝手な方針を立てた日には、最初から僕の存在を愚弄してゐると同じ事ぢやないか。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
自分になんらの悪気わるぎはなかったものの、妻が自分にとつぐについては自分に多大ただいのぞみをしょくしてきたことは承知しょうちしていたのだ。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「こういう時に人間は悪気わるぎを起すのだ。出来るものなら俺も定九郎でもめたい」
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
安「これはどうも……私も悪気わるぎで致しましたわけではありません、ねえおふくろさま」
「ほんに、おまえさんに、よくいたずらしたっけが、後生ごしょうだから、わるおもって、くんなさんなよ。ちっとも悪気わるぎはなかったのだから……。」と、母親ははおやは、おもしてあたらしくなみだをぬぐいました。
赤いガラスの宮殿 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「茶目だからさ。悪気わるぎはないけれど、先生から始終睨まれていた」
合縁奇縁 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「全く先生のためを思つたからです。悪気わるぎぢやないです」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お千代はそれほど力になる話相手ではないが悪気わるぎのない親切な女であるから、よめ小姑こじゅうとの仲でも二人は仲よくしている。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
悪気わるぎはないんだが、気がつかないのさ」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)