思切おもいき)” の例文
その歩きぶりは、全くあてのない散歩でもしている様に見えるが、こうして蘭堂を退屈させて、尾行を思切おもいきらせる算段かも知れない。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
善々よく/\思切おもいきったのであろう、それとも無理な才覚をなすって美土代町のお宅でも悪借金わるじゃっきん………でもありゃアしないかと思われますねえ
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
うらみ籠めたる男の声に、お照はさながら電気に打たれたらん如く、全身ぶるぶると顫わせしが、ついに思切おもいきりて握りし仙太の手を放しつ。
片男波 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
坊主で果てるよりはよほどのましじゃと、思切おもいきって戻ろうとして、石を放れて身を起した、背後うしろから一ツ背中をたたいて
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
影の大統領「ずいぶん思切おもいきりの悪い奴だ。こんなしぶとい奴とは思わなかった。……まあ、これでいい。すぐ布告するかな。おい副大統領。ここへ来い」
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
万事万端思切おもいきりがくて、世に処しまつりごとを料理するにも卑劣でない、至極しごく面白い気風であるが、何分にも支那流の磊落らいらくを気取て一身の私をつつしむことに気が付かぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
思切おもいきり大声を張上はりあげて「誰だ!」と大喝だいかつ一声いっせい叫んだ、すると先方さきは、それでさも安心した様に、「先生ですか」というのだ、私はその声を聞いて、「吉田よしだ君かい」というと
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
すこ身体からだ工合ぐあいわるいから、今日きょうだけ宿やどのこっていると、つい思切おもいきってともうたのであった、しかるにミハイル、アウエリヤヌイチは、それじゃ自分じぶんいえにいることにしよう
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
中々なかなか逃げそうにもしない、仕方なしに、足でパッと思切おもいきり蹴って、ずんずん歩き出したが二三げんくとまた来る、平時いつもなら自分は「何こんなもの」と打殺ぶっころしたであろうが、如何どうした事か
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
それに、今切落きりおとした娘の黒髪とを形見に残して、喜んで再び庭より飛石伝えに中門ちゅうもんく姿を見ると、最早もはや今は全くこの世を思切おもいきりしものか、不思議な事は、スラリとしたその振袖姿の
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
だから、今夜だけ思切おもいきり一緒に夜通し唄ってあるかしてよ。
い「お前さんの御迷惑になるような事なら思切おもいきりますけれど、お前さんの御迷惑にならないように死にさえすればようございましょう」
「よろしい、開けましょう」断乎として鴨田が思切おもいきったことを云った。「しかししもこのタンクの中に園長が入っていなかったら君は僕に何をつぐないます」
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
思切おもいきって坂道を取ってかかった、侠気おとこぎがあったのではござらぬ、血気にはやったではもとよりない、今申したようではずっともうさとったようじゃが、いやなかなかの臆病者おくびょうもの
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
母も中々思切おもいきりのい性質で
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「私が学校でる教科書が買えなかったので、親仁おやじ思切おもいきって、阿母おふくろ記念かたみの錦絵を、古本屋に売ったのを、平さんが買戻かいもどして、しまっといてくれた。その絵の事だよ。」
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
本来ならば「丸木花作まるきはなさくこと本名ほんみょう張学霖ちょうがくりんは……」といった風に書くのが本当なのであるが、それを一々書くのが、わずらわしい程、××人が出てくることであるから、一つ思切おもいきって
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)