必死ひっし)” の例文
そこには、白旗しらはたみやのまえから、追いつ追われつしてきた小幡民部こばたみんぶが、穴山あなやま旗本はたもと雑兵ぞうひょうを八面にうけて、今や必死ひっしりむすんでいる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
サービスは身をおどらして、穴のなかへとびこんだ、穴のなかでは猟犬りょうけんフハンと、だちょうが必死ひっしになって戦っていた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
トーマスは必死ひっしになって、ドアのとっ手にしがみついたが、なんのかいもなく、みるまにひきずられていった。
ロレ まア、おちゃれ。たすかるすべおもひついたわ。必死ひっしやくのがれうためゆゑ必死ひっし振舞ふるまひをもせねばならぬ。
半十郎、紙入をさらった第一の男を断念して、振り分け荷をさらった、第二の男に必死ひっしと追いすがりました。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
学校がっこうへゆくときも四にんはそろって太郎たろうにあったら、必死ひっしとなってたたか覚悟かくごでありましたから、太郎たろうは、それをてとってか容易ようい手出てだしをいたしませんでした。
雪の国と太郎 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それはいなかのことばです。町の子どもである克巳かつみに聞かれるのは、はずかしいことばです。しかし、いまは、松吉は、はずかしくもなんともありません。必死ひっしでした。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
もうそのうちにも船はしずみますし、私は必死ひっしとなって、どうか小さな人たちをせてくださいとさけびました。近くの人たちはすぐみちを開いて、そして子供たちのためにいのってくれました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
が、必死ひっしけたにわ木戸きどには、もはやおれん姿すがたられなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
なんともいえぬおそろしさだが、またなんともいえぬ壮快そうかいな気分と、必死ひっしの力が五にもやいばにもみなぎってくる——
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
パッと振り上げたヴァイオリン、三万円の名器を柱に叩き付けようとする手に、信子は必死ひっしと縋り付いて
天才兄妹 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
トーマスは、あばれまわっている人たちの足もとをいまわりながら、必死ひっしで逃げだす道をさがしている。
この一せんせんの光の下に、必死ひっしとなってかじをとりつつある、四人の少年の顔が見える。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
と、おうじました。杉作も必死ひっしでした。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
あれでも燕作にしてみりゃ、せいいっぱいにやったつもりなんだが、なにしろ竹童のやつが必死ひっしってかかってきたので、すこし面食めんくらったというものさ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二三人の武士、お秋を手取り足取り引離そうとしましたが、必死ひっしと絡みついて引剥がしても引剥がしても離れません。見ると両手の生爪は剥げて、手から腕へ流るる血汐
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
おかみさんの必死ひっしのさけびに、ホールや酒場さかばにいた男の連中れんちゅうがどやどやとかけつけてきた。
かれは必死ひっしの思いでつなをしっかりとにぎった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
二人とも薄傷うすでを負ったらしく、山浦丈太郎はわけても、頬や腕のあたりにかすり傷を受けましたが、蘇芳すおうを浴びたようになり乍ら、気力を励まして、必死ひっしと切り結びます。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
必死ひっしと深山へすがり付きます、見ると、例の小牛ほどあるブル、お鶴の裾を食えて胸壁から引戻したのでしょう、お鶴の裾にジャレ付いて、はぎもあらわに逃げ惑わせて居ります
判官三郎の正体 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
愛子は必死ひっしと、憤怒ふんぬに狂って理性を失いかけた私の胸にすがり付きます。
死の舞踏 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
必死ひっしと働き続けるのに対して、幸吉の飛行具は、翼に受ける風圧を利用した滑翔飛行具で、手も、翼も動かさず、極めて安らかに、千仞の谷の上を巨大な鳶のように、ゆらりゆらりと飛ぶのでした。
天保の飛行術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
お鳥は起直おきなおると、必死ひっしと、郷太郎の裾にからみ付きました。
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)