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御歸
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おかへ
御歸し下さる樣偏へに御願ひ申ますと
眞面目で云ふゆゑ
居並びし役人共一同笑ひに
耐兼眞赤に成て居るにぞ越前守殿も
笑はれながら
好々御威光を
「やあ
昨夜は。
今御歸りですか」と
氣輕に
聲を
掛けられたので、
宗助も
愛想なく
通り
過ぎる
譯にも
行かなくなつて、
一寸歩調を
緩めながら、
帽子を
取つた。
郵便爲替にて
證書面のとほりお
送り申候へども、
足りずば
上杉さまにて
御立かへを
願ひ、
諸事清潔にして
御歸りなさるべく、
金故に
恥ぢをお
掻きなされては
金庫の
番をいたす
我等が申わけなく候
小六は
其時中學を
出て、
是から
高等學校へ
這入らうといふ
間際であつた。
宗助を
見て、「
兄さん」とも「
御歸りなさい」とも
云はないで、たゞ
不器用に
挨拶をした。
恐ろしく
叱り
付たり
怕眼で
白眼ますから久兵衞ほど
怕者は御座りません夫れに
引替若い者重助は誠に
好者にて若旦那々々々と云て大事にして
呉ますと申すに越前守殿夫れにて分つたり
下れ/\と申されしかば私しの
御内儀さんは
呉々も
御歸し
下さいましと言つゝ白洲を
「
姉さん、
左樣なら」と
聲を
掛けたら、「おや
御歸り」と
云ひながら
漸く
立つて
來た。