御名おんな)” の例文
表紙の撫子なでしこに取添えたる清書きよがき草紙、まだ手習児てならいこの作なりとてつたなきをすてたまわずこのぬしとある処に、御名おんなを記させたまえとこそ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かつて、白河上皇の寵幸ちょうこうをうけた身であるというほこりが、かの女の心の骨格になっているらしい。すぐ、白河の御名おんなを口に出す。
由来記や旧記の録するところにれば、村々島々の御岳拝所うたきはいしょには、それぞれの神の御名おんながあって、名の意味は少しでもまだ説明せられていない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その恐ろしさというものは、まったくの生命いのちがけで、月明りをタヨリに、神仏かみほとけ御名おんなを唱えながら見ておりましたが……
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
自分は天の冥加みょうがに叶って今かくとうとい身にはなったが、氏も素性もないものである、草刈りが成上ったものであるから、いにしえ鎌子かまこ大臣おとど御名おんなよすがにして藤原氏になりたいものだ。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
女王の御名おんなの下にさらに……黒インキで、アルセーヌ・ルパンと書いてある。
そしてこれは全く気狂いのような話しじゃが、あの古い弥撤みさ書にある基督キリスト像の後光や神の御名おんなでさえも、やはりあれが純金であったものじゃによってこれもまた抜き取られてしまったんじゃ。
病みしは僅に二日ばかりなりしが、その間アントニオ、アントニオとのみ呼び續け候ひぬ。わがかく檀那の御名おんなをいふを無禮なめしとおもひ給ふな。母は唯一目アントニオを見て死なんといひき。
しかもその誓約は日本でいえば弓矢八幡、八百万やおよろずの神々というが如く天にします神の御名おんなに於て厳格に約束したのである。然るに会議して帰国すれば直ちに軍備を修めて戦争の用意をしていた。
神体とあがめたるは、その光紫の一大明星みようじようにて、御名おんな大御明尊おおみあかりのみことと申す。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
僭越せんえつでおざろう。何で一木下ごときを、世人がとがめよう。織田軍として行うたことは、すべて殿の御名おんなに帰してくる」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
詮ずればひでを忘れよというなり。その事をば、母上の御名おんなにかけて誓えよと、常にミリヤアドのいえるなりき。
誓之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「イエ。女王様は濃紅という御名おんなでは御座いませぬ」
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
来られない道理だ! いかに鉄面皮てつめんぴでも、幾多の肉親の頼みや故国の使命を裏切り、あまつさえ、神の御名おんなをこの国の幕府へ売って、囚徒の後家を妻にもらい
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もののけはひを、夜毎よごと心持こゝろもちかんがへると、まだ三にはがあつたので、うあたまがおもいから、そのまゝだまつて、母上はゝうへ御名おんなねんじた。——ひとういふことからちがふのであらう。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それを打ち捨てて尼子勝久も山中鹿之介をも、見殺しに遊ばされては、この秀吉ごとき一将の立場はともあれ、信長公ともある御名おんなの名折れ、やがて中国筑紫つくしの果てまで
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もののけはいを、夜毎よごと心持こころもちで考えると、まだ三時にはがあったので、う最うあたまがおもいから、そのまま黙って、母上の御名おんなを念じた。——人はういうことから気が違うのであろう。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いうなッ、あくまで吾らの眼をくらまそうとて、その言い訳にうなずく有村ではない。って組掟をたてにとるならこのほうは領主重喜しげよし公の御名おんなをもってこの荷つづらのじょうをぶち破るがどうじゃ!」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)