径路けいろ)” の例文
旧字:徑路
こう云う場合における精神運動の方向は、いつもきまったもので、必ず積極から出立してしだいに消極に近づく径路けいろを取るのが普通である。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
径路けいろせまきところは、一歩を留めて、人に行かしめ、滋味じみこまやかなるものは、三分を減じて人にゆずりてたしなましむ、これはれ、世をわたる一の極安楽法ごくあんらくほうなり」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
が、刺し殺した瑠璃子自身は、刺し殺す径路けいろに於て、刺し殺した結果に於て、悪魔に近いものになっている。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
一人ひとり二人ふたり分の性格が出来ると同時に、他の一人は白痴はくちになつてしまふ。その径路けいろを書いたものですが、外界には何も起らずに、内界に不思議な変化の起る所が、すこぶる巧妙に書いてある。
近頃の幽霊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼女があのまやかし物の「父の形見」を見せられて一時は情にほだされたとしても、遂に全く心を許して復讐の大事を彼にゆだねるに至ったのには、尚相当の径路けいろがあったことゝ想像される。
国貞くにさだの女が清長きよなが歌麿うたまろから生れたのはこういう径路けいろを取っている。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
それにも、径路けいろがなければならぬ。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからさきんな径路けいろを取つて、生長するかわからないが、到底人間にんげんとして、生存するためには、人間にんげんからきらはれると云ふ運命に到着するにちがひない。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
僕がここに自分のまよいの径路けいろを述べたのは、同じ問題に苦しめる人の参考にきょうしたいからである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
開化とは人間の energy の発現の径路けいろで、この活力が二つのことなった方向に延びて行って入り乱れて出来たので
無題 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
顧みれば顧みるほど華麗はなやかである。小野さんはおもむきが違う。自然の径路けいろさかしまにして、暗い土から、根を振り切って、日のとおる波の、明るいなぎさただようて来た。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一般からこうむる評価には、案外な点もあるいはあるといわれるかも知れないが、自分が如何にしてこんな人間に出来上ったかという径路けいろや因果や変化については
自分の心の径路けいろをありのままに現わすことが出来たならば、そうしてそのままを人にインプレッスする事が出来たならば、すべての罪悪というものはないと思う。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうすると果してこんな径路けいろを取って、こんな風に「何が何だか分らなくなる」かどうだか保証出来ない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、顔を知り合ってから、結婚が成立するまでに、どんな径路けいろを通って来たか自分はよく知らない。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
高柳君がふと眼を挙げた時、梧桐はすべてこれらの径路けいろを通り越して、から坊主ぼうずになっていた。窓に近くななめに張った枝の先にただ一枚の虫食葉むしくいばがかぶりついている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし私自身がそれがため、自信と安心をもっているからといって、同じ径路けいろがあなたがたの模範になるとはけっして思ってはいないのですから、誤解してはいけません。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時はるか下の方を見渡して、山やら、谷やら、はたけやら、一々実地の地形について、当時の日本軍がどう云う径路けいろをとって、ここへじりじり攻め寄せたかをついでながら物語られた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いくら死に近づいても死ねないと云う非事実な論理に愚弄ぐろうされるかも知れないが、こう一足飛びに片方から片方に落ち込むような思索上の不調和をまぬかれて、生から死に行く径路けいろ
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)