だて)” の例文
隣地の町角に、平屋だての小料理屋の、夏は氷店こおりみせになりそうなのがあるのと、通りを隔てた一方の角の二階屋に、お泊宿の軒行燈のきあんどんが見える。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは見覚えのある銀座裏の袋小路ふくろこうじ相違そういなかった。彼の立っているのは、カフェ・ドラゴンとおほりとの間にある日本だての二階家の屋根だった。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
美妙の武者窓むしゃまどの長屋よりは気のいた一軒だてであったが、美妙が既に一人前の紳士であったと違って、紅葉はマダ書生ッぽで三畳の書斎に納まっていた。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
坂の上から見ると、坂はまがつてゐる。かたな切先きつさきの様である。幅は無論狭い。右側の二階だてが左側の高い小屋こやの前を半分遮ぎつてゐる。其うしろには又高いのぼりが何本となく立ててある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
無闇に間口ばかり広い二階だてで、一階の外壁は漆喰しっくいも塗らないで赤黒い煉瓦がき出しになっているが、もともと汚ならしい煉瓦が烈しい天候の変化に逢って一層くろずんでいる。
それから、昭和元年ごろ、歳晩としのくれにも一度見て通ったことがある。その時には市区改正の最中で道路が掘りかえされ、震災後のバラックだてであるし、ほとんど元のおもかげがなくなっていた。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
もっとも一部は建て増されたもので、二階だての普通の小学校の形になっていたが、雨天体操場の方などは、昔の建物をそのまま使っていたので、今から考えてみれば、随分古風な学校であった。
簪を挿した蛇 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そこには、安っぽいバラックだてのような二階建が並んでいて、その背後に入って見ると、同じような家々が隙間もなく建ち、その一角の広い板囲いの中に、工場のようなものが建ちかかっていた。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
もかくも家のなかへ這入つて、熱い紅茶の一杯もすすつて、当坐の寒さをしのがうと思つたのである。店は間口まぐちけんぐらゐのバラツクだてで、おもての見つきはよろしくなかつたが、内は案外に整頓してゐた。
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
いまのバラツクだて洋館やうくわんたいして——こゝに見取圖みとりづがある。——ことわるまでもないが、地續ぢつゞきだからといつて、吉良邸きらていのではけつしてない。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つちがまだそれなりのもあるらしい、道惡みちわるつてはひると、そのくせ人通ひとどほりすくなく、バラツクだてのきまばらに、すみつて、めうにさみしい。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
丸の内辺の某倶楽部くらぶを預って暮したが、震災のために、立寄ったその樹の蔭を失って、のちに古女房と二人、京橋三十間堀裏のバラックだてのアパアトの小使、兼番人でわびしく住んだ。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)