-
トップ
>
-
廊下口
>
-
らうかぐち
此時宗助と
並んで
嚴肅に
控えてゐた
男のうちで、
小倉の
袴を
着けた
一人が、
矢張無言の
儘立ち
上がつて、
室の
隅の
廊下口の
眞正面へ
來て
着座した。
時に、
廊下口から、
扉の
透間から、
差覗いて、
笑ふが
如く、
顰むが
如く、ニタリ、ニガリと
行つて、
彼方此方に、ぬれ/\と
青いのは
紫陽花の
面である。
面でない
燐火である。いや
燈籠である。
袴を
着けた
男は、
臺の
上にある
撞木を
取り
上げて、
銅鑼に
似た
鐘の
眞中を
二つ
程打ち
鳴らした。さうして、ついと
立つて、
廊下口を
出て、
奧の
方へ
進んで
行つた。
やがて
寂寞の
中に、
人の
足音が
聞えた。
初は
微かに
響いたが、
次第に
強く
床を
踏んで、
宗助の
坐つてゐる
方へ
近付いて
來た。
仕舞に
一人の
僧が
廊下口からぬつと
現れた。