“府下(ふか)” の例文
六月(ぐわつ)の末(すゑ)であつた。府下(ふか)澁谷(しぶや)邊(へん)に或(ある)茶話會(さわくわい)があつて、斯(こ)の工學士(こうがくし)が其(そ)の席(せき)に臨(のぞ)むのに、私(わたし)は誘(さそ)はれて一日(あるひ)出向(でむ)いた。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
そのうちにも、病人(びやうにん)の容態(ようたい)は、刻々(こく/\)險惡(けんあく)になつてゆくので、たうとう、そこから餘(あま)り遠(とほ)くない、府下(ふか)××村(むら)のH病院(びやうゐん)へ入院(にふゐん)させるより仕方(しかた)がなくなつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
昨六日午後府下(ふか)千住町(せんじゅまち)中組(なかぐみ)——番地往来の溝川をさらっているうち人夫木田三次郎(きださんじろう)がすくい上げた泥の中から
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
府下(ふか)世田(せた)ヶ谷(や)町松陰神社(しょういんじんじゃ)の鳥居前で道路が丁字形に分れている。分れた路を一、二町ほど行くと、茶畠を前にして勝園寺(しょうえんじ)という匾額(へんがく)をかかげた朱塗(しゅぬり)の門が立っている。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
農商務省(のうしょうむしょう)にもでた、警視庁(けいしちょう)へもでた。いずれもあまりに位置(いち)が低(ひく)いので二年とはいられずやめてしまった。そのうち府下(ふか)の牛乳搾取業者(ぎゅうにゅうさくしゅぎょうしゃ)の一部(ぶ)が主(しゅ)となって、畜産衛生会(ちくさんえいせいかい)というものができた。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
主人も聞いてみると、すこしはうわさに聞いたことのある、花前(はなまえ)という男だ。変人(へんじん)で手におえないとも、じつはかわいそうな人間だともいわれて、府下(ふか)の牛乳屋(ぎゅうにゅうや)をわたっていた乳(ちち)しぼりである。
箸 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
此(こ)の東京(とうきやう)の四萬(よまん)の數(かず)は多(おほ)いやうだけれども、其(そ)の頃(ころ)にしろ府下(ふか)一帶(いつたい)の人口(じんこう)に較(くら)べては、辻駕籠(つじかご)ほどにも行渡(ゆきわた)るまい、然(しか)も一(いつ)ヶ月(げつ)税銀(ぜいぎん)八匁(はちもんめ)の人力車(じんりきしや)である。なか/\以(もつ)て平民(へいみん)には乘(の)れさうに思(おも)はれぬ。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)