帆綱ほづな)” の例文
クニ子もそういう話にちゃんと相槌あいづちを打って、生れながらの船乗りでない重吉がどうしても帆柱へ登れず、帆綱ほづなの取りかえには
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
もちろんマストには、どこの国の船だかを語る旗もあがっていず、太い帆げたも、たるんだ帆綱ほづなもまるで綿でつつんだように氷柱つららがついている。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その霧のなかに、ブランブランと、人魂ひとだまのようにゆれている魚油ぎょゆのあかり。ギリギリ、ギリギリと帆綱ほづなのきしむ気味の悪さ……
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「だが、気をつけろよ、船より波のほうが早いから、うしろからかぶさってくる波にからだをさらわれないように、帆綱ほづなにからだをゆわえつけろよ」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
懐中ものまで剥取はぎとられた上、親船おやぶね端舟はしけも、おので、ばら/\にくだかれて、帆綱ほづな帆柱ほばしら、離れた釘は、可忌いまわし禁厭まじない可恐おそろし呪詛のろいの用に、みんなられてしまつたんです。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
色とひびきである。光のない上の世界と下の世界、その間を私たちの高麗丸のスクリュウが響く。機関がほてる。帆綱ほづなが唸る。通風筒の耳のあなが僅かに残照の紅みを反射する。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
二度、三度、つばさをバタバタやりましたが、もう、どうしようもありません。足が、船の帆綱ほづなにさわりました。帆の上をすべり落ちて、バタッと、甲板かんぱんの上に落ちました。
そこで、小人はすぐさま物置ものおきのほうへかけていって、ぼうを持ってくると、かごにかけ、ちょうど水夫すいふ帆綱ほづなをよじのぼるようなぐあいに、スルスルとよじのぼっていきました。
舳を突っかけながら、あらためてつくづくと眺めると、帆綱ほづな元場もとばにも水先頭場みずさきがしらばにも、綱の締場しめばにも、まるきり人影というものがない。たるみきった帆綱がゆらゆらと風に揺れているばかり。
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「西へ行く日の、はては東か。それは本真ほんまか。ひがし出る日の、御里おさとは西か。それも本真か。身は波の上。戢枕かじまくら。流せ流せ」とはやしている。へさきへ行って見たら、水夫が大勢寄って、太い帆綱ほづな手繰たぐっていた。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そしていきなり、脇差を抜き、片手にふるって、蜘蛛手くもでに張り廻した帆綱ほづな帆車ほぐるま、風をはらみきった十四反帆! ばらばらズタズタ斬り払った。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして帆綱ほづなをぐいとひっぱった。帆は海風をいっぱいにはらんだ。風はまともに島へむけて吹いている。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ボートは長さ四メートルばかりの伝馬船てんませんで、帆柱ほばしらは根元から折れ、右舷うげんはひどく破れていた。きれぎれの帆と、帆綱ほづなの断片がちらばっているばかりで、船中にはなにもなかった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そこに三本マストの大きな船が横たわっていました。そよとも風がないので、一本だけに帆が上げてあって、それをとりまいて、水夫たちが、帆綱ほづなや帆げたに腰をおろしていました。
抵抗てむかひらずはだかにされて、懷中くわいちうものまで剥取はぎとられたうへ親船おやぶね端舟はしけも、をので、ばら/\にくだかれて、帆綱ほづな帆柱ほばしらはなれたくぎは、可忌いまはし禁厭まじなひ可恐おそろし呪詛のろひように、みんなられてしまつたんです。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
揺れ揺れ、帆綱ほづなよ、空高く……
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ほどなく、大江たいこうのまん中へかかる。張順、帆綱ほづなの加減を取っている截江鬼のそばへ来て、着ていた蓑笠みのがさをかなぐり捨てた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それよりか船の上はとてもあかるくて、甲板の上の帆綱ほづなが、ごくほそいのまで一本一本わかるくらいだ、とみんなはいっていました。でも、まあ、わかい王子のほんとうにりっぱなこと。
みよしに近く立っているのは、日本の少年大和富士男やまとふじおである。そのつぎにあるは英国少年ゴルドンで、そのつぎは米国少年ドノバンで、最後に帆綱ほづなをにぎっているのは、黒人モコウである。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
飾磨しかまの麻屋万兵衛の家は、店は取るに足らない小店だが、近郷から麻を買い集め、それを漁師りょうしの娘や女房たちの手内職に出して、帆綱ほづなや、網の製品とし、ともかく一戸の旦那といわれている者なのに
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それッ、帆綱ほづなをひけ! 大金おおがねもうけだ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帆綱ほづなたかれーッ、帆綱をまけ——」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)