居合いあい)” の例文
本堂を経て三社権現をめぐり、知らず識らず念仏堂の方へ歩みをうつすと、松井源水が黒山のように人を集めて居合いあいを抜いている。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
とうめくより早く、土を蹴散らした足の開き、去水流相伝きょすいりゅうそうでん網笠撥あみがさはねの居合いあいに、豪刀ななめに飛んでガッ! と下から乾雲を払った。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
富田流とだりゅうの刀法を鐘巻自斎かねまきじさいにうけ、居合いあいを吉川家の食客片山伯耆守ほうきのかみ久安から皆伝かいでんされ、それにも甘んじないで自ら巌流がんりゅうという一流を立てたほどの者で
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
抜き打ちに斬りつけて先手を打つのが肝要だとは、日ごろ親から言われていた少年のことだ。居合いあいの心得は充分ある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
よし/\洋学流の吾々われわれは反対に出掛けてろうとう気になって、あたかも江戸の剣術全盛の時代に刀剣を売払うりはらっ仕舞しまい、兼てきな居合いあいめて知らぬふうをして居たような塩梅あんばい式に
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
なるほど、いまのは居合いあいか、いや、あれは見て覚えたんだ、と広一郎は云った。
女は同じ物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と云われこの時は永禪和尚もこれは隠悪ぼくれたわい、もう是れまでと思ってじゞばゞあを切殺して逃げるよりほかはないと、道中差どうちゅうざし胴金どうがねを膝の元へ引寄せて半身構えに成って坐り、居合いあいで抜く了簡
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
くうを突かした刀の下から同時にサッと居合いあいの一太刀で、外に振りかぶって待ち構えていたの黒の一人の足を切って飛んで出でたものです。
伊兵衛、剣道の名人にあらずといえども、死に身の力から発した自然の居合いあい、場なれのした切ッさき、わざに法はなしとてなかなかあなどれたものではない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
剣を棄てゝ剣を揮う私がしば源助げんすけ町で人をろうと決心した、居合いあいも少し心得て居るなんてえば、何か武人めいて刀剣でも大切にするように見えるけれども、その実は全く反対で
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かんのうちから、悦之進どのと根競こんくらべを約束して、毎あさ暁起ぎょうきして、てまえは素槍すやり千振せんぶり、悦之進どのは、居合いあいを三百回抜くというぎょうをやっておりまする」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえば居合いあいの上手が切れば、切られた人が、切られたことを知らないで歩いていたという実例や、八丁念仏のいわれなどを幾つも説いて、それは要するにいてみる動物の精力の強弱のみではなく
床下からではあるが、十分、居合いあいひじが延びて行ったので、さやを脱した皎刀こうとうは、刃を横にして銀五郎の片足——浴衣ゆかたの上から返り血の飛ぶほどな傷手いたでを与えた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小林は小野派一刀流をもととして田宮流の居合いあい、神道流の槍なども得意としている人であります。彼はこの斬り手がたしかに、城内にある勤番武士のうちの誰かであると見当をつけてしまっていました。
さらにあわれをとどめたのは——大勢おおぜいの客を呼びあつめ足駄あしだばきで三ぼうにのっていた歯磨はみがき売りの若い男、居合いあいの刀を持っていたところから、一も二もなく目がけられて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御尤ごもっともです——では、さだめて居合いあいの方は……」
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この人の習慣として、毎朝、起きぬけに百しゃしんをことかかなかった。百射とは、まだきに起きて、弓を百本射る。百振とは、大剣を払って、居合いあいの素振りを試みることである。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
居合いあいを見せているのじゃな、ウム、面白い、川越の城下にもこんな繁昌な所があるか」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一人と一人との立ち合いなら別だが、衆に囲まれてしまった時は、この抜く時があぶない! いかなる居合いあいの達人にしても、ここは毛ほどの隙——隙といい得なければ手塞てふさぎが生じる。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
居合いあいという言葉は、後世にできたび方であろう。
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
居合いあい抜きの歯磨き売り。百獣屋ももんじやの白熊のおり
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)