尤物ゆうぶつ)” の例文
以前ローマ人は、半男女を不祥とし、生まれ次第海に投げ込んだが、後西暦一世紀には、半男女を、尤物ゆうぶつの頂上として求め愛した。
梅の花は天下の尤物ゆうぶつだといわれます。これをみどりの松、緑の竹に比べますと色があってこの二つに取り添うと何んとなく軟かい一脈の趣が生じます。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
しかも、これほどな尤物ゆうぶつが一生涯彼の偉業に奴隷的感謝をささげ、彼の前にうやうやしくおのれをむなしゅうする。
あるある島田には間があれど小春こはる尤物ゆうぶつ介添えは大吉だいきちばば呼びにやれと命ずるをまだ来ぬ先から俊雄は卒業証書授与式以来の胸おどらせもしも伽羅きゃらの香の間から扇を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
伝え聞く、悪源太義平の寵愛ちょうあいを受けた八重菊、八重牡丹の姉妹は、都にも稀れなる尤物ゆうぶつであったそうな。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
古歌にちなんで足曳と命名されたこの駿馬しゅんめは、野に放したが最後、山鳥のように俊敏に、草を踏みしだき、林をくぐり、いや、鳥のごとく天空をもけんず尤物ゆうぶつ
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その木に本末もとすえあれば、本木の方が、尤物ゆうぶつ中の尤物たること勿論もちろんなり、それを手に入れてこそ主命を果すに当るべけれ、伊達家の伊達を増長致させ、本木を譲り候ては
「ははは、構わん、遣れ。あの花売は未曾有みぞう尤物ゆうぶつじゃ、また貴様が不可いけなければわしが占めよう。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この外『新古今』の「入日いりひをあらふ沖つ白浪しらなみ」「葉広はびろかしはに霰ふるなり」など、または真淵まぶちわしあらし粟津あわづ夕立ゆうだちの歌などの如きは和歌の尤物ゆうぶつにして俳句にもなり得べき意匠なり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
三渓の蒐集品は文人画ばかりでなく、古い仏画や絵巻物や宋画や琳派りんぱの作品など、尤物ゆうぶつぞろいであったが、文人画にも大雅たいが蕪村ぶそん竹田ちくでん玉堂ぎょくどう木米もくべいなどのすぐれたものがたくさんあった。
漱石の人物 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
その最後の第十七代松平上野介忠敏まつだいらこうずけのすけただとしこそは、幕末剣客中の尤物ゆうぶつで、神田講武所の師範代を長らく勤め、かの清川八郎なぞと共に、新徴組を組織して、その副隊長に擬せられた一代の風雲児です。
「どころの騒ぎか、ちょいと見な、滅法もねえ、尤物ゆうぶつだぜ」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
歴史の遺した尤物ゆうぶつとはそこに大なる相違があります。
「ほほう、これは、尤物ゆうぶつだ」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
かかる曠世こうせい尤物ゆうぶつを無窮に残し拝ますはアの筆のほかにその術なしとあって、その装束を脱いだ体を画かしめた。
その辺の魂胆こんたんはまだ貴様にはわかるまい、わかってもらう必要もないのだが、貴様の今に始めぬ色師自慢から思いついたのは、酒井左衛門尉の御寵愛ごちょうあいこうむった尤物ゆうぶつ
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
本木の方が尤物ゆうぶつ中の尤物たること勿論もちろんなり、それを手に入れてこそ主命を果すに当るべけれ、伊達家だてけの伊達を増長いたさせ、本木を譲りそろては、細川家のながれけがす事と相成り申すべくと申そろ
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「いや、じつに尤物ゆうぶつ! 拙者は、送り狼の役を買って藤屋まで引っ返そう。」
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「大した尤物ゆうぶつでございます」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
全く惚れ薬取りが惚れ薬に中毒したのだ。その節集古会員上松蓊君も同行したから彼女の尤物ゆうぶつたる事は同君が保証する、あの辺へ往ったら尋ねやってくれたまえ。
酒井左衛門尉の御寵愛をこうむった尤物ゆうぶつが、いま宿下りをして遊んでいることだ。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
掛けておきましたところが、これも縁でございますな。いや、逸物いちもつ尤物ゆうぶつ——なんぼ人形食いの殿様でも、これがお気に召しませんようでは、今後こういう御相談は、平茂、まっぴら御免、なんて、前置きが大変。
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)