たずね)” の例文
それから井上が何か吟味に逢うて、福澤諭吉に証人になって出て来いといって、私を態々わざわざ裁判所に呼出よびだして、タワイもない事を散々たずね
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
御手伝申上げているうちにも明日の天候に就て「どうですか」とおたずねがある。県庁の人や記者団からは、明日の御出発時間を問合せて来る。
「はい。どなたのお墓をおたずねなさいますのです。」女の声音こわねは顔色と共にはればれとしていて、陰鬱なる周囲の光景には調和していなかった。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかし放蕩紳士ほうとうしんしが胸中を披瀝ひれき致候も他日雅兄がけい小説御執筆の節何かの材料にもなるべきかと昨夜は下らぬ事包まずおたずねのまゝ懺悔ざんげ致候次第に御座候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これも大問題ではありませんか。こん風に考えてけば、問題は問題を生んで底止ていしする所を知らないのです。おたずねになるから、こんな事も言います。
そこでと、湯もいてるから、茶を飲みたければ飲むと……羊羹ようかんがある。一本五銭ぐらいなんだが、よければおつまみと……今に何ぞご馳走ちそうしようが、まあ、おたずねの件を
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それと同様に妻君の何かうかない顔をしていて良人にたずねられる時、イエどうも致しませんと余所余所よそよそしい返事をしてやっぱり浮ない顔をしていたら良人の心配はいよいよ深くなるばかりだ。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
どうぞこの為事しごとをした、そこの二人におたずね下さい。
たずねよる門やしまりて梅の花 野紅
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
不忍池は今日市中に残された池のうちの最後のものである。江戸の名所に数えられたかがみいけうばいけは今更たずねよしもない。
の政治家が国事を料理するも、実業家が商売工業を働くも、国民が報国の念に富み、家族が団欒だんらんの情にこまやかなるも、その大本たいほんたずねればおのずから由来する所が分る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それは小さいおたずねかと存じます。
師はいそがはしく凌雲院を出で三枚橋の傍に至りし時、左右の小路より人数多く出来りたずねふべき仔細しさいあり町奉行所へ参り候へとて引連れて候と告ぐ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ふと小石川の事を思出して、午後ひるすぎに一人幾年間見なかった伝通院をたずねた事があった。近所の町は見違えるほど変っていたが古寺ふるでら境内けいだいばかりは昔のままに残されていた。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
余りに不思議に候まゝ御無沙汰の御詫おわびに事寄せくだ/\しくおたずね申上候もとかく人のうわさ聞きたがるは小説家の癖と御許被下おゆるしくだされたくいづれ近々参堂御機嫌伺上うかがいあげたくまずは御無沙汰の御詫おわびまで匇々不一そうそうふいつ
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
同処へたずね行き申候。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「おいそがしう御在ましょう。わるいものが降り出しました。師匠。実はちいッと御相談しなくちゃ、成らない事があるんで、この間からおたずね申そうと思いながら、今夜もこの雪でかじかんでしまいました。」と薄ッぺらなくちびるからお獅子のような金歯を
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)