宿引やどひき)” の例文
さしも客を争う宿引やどひきも、ナゼか竜之助の姿を見てはあまり呼び留めようともしない、これはまだ日脚ひあしの高いせいばかりではあるまい。竜之助は仰いで高札こうさつを見る。
函館から一時間余にして、汽車は山を上り終え、大沼駅を過ぎて大沼公園に来た。遊客ゆうかくの為に設けたかたばかりの停車場である。こゝで下車。宿引やどひきが二人待って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
もっとももう時雨の頃で——その瓢箪ひょうたん頭を俯向うつむけますと、(おい、霞の五番さんじゃ、今夜御療治はないぞ。)と、こちらに、年久しい、半助と云う、送迎おくりむかえなり、宿引やどひきなり、手代なり
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
宿引やどひきの声。それには用がない。竜之助は神宮の方へは行かないで、浜の鳥居から右に寝覚ねざめの里。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
敦賀つるが悚毛おぞけつほどわづらはしいのは宿引やどひき悪弊あくへいで、其日そのひしたるごとく、汽車きしやりると停車場ステーシヨン出口でぐちから町端まちはなへかけてまねきの提灯ちやうちん印傘しるしかさつゝみきづき、潜抜くゞりぬけるすきもあらなく旅人たびびと取囲とりかこんで
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大竹小竹の宿引やどひきが不審の眼をみはったのも気がつかず、一文字にここまで来て
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
敦賀で悚毛おぞけの立つほどわずらわしいのは宿引やどひき悪弊あくへいで、その日も期したるごとく、汽車をおりると停車場ステイションの出口から町端まちはなへかけて招きの提灯ちょうちん印傘しるしがさつつみを築き、潜抜くぐりぬけるすきもあらなく旅人を取囲んで
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
改札口かいさつぐちには、あめ灰色はひいろしたうすぼやけた旅客りよかくかたちが、もや/\と押重おしかさなつたかとおもふと、宿引やどひき提灯ちやうちんくろつて、停車場前ステーシヨンまへ広場ひろばみだれて、すぢながなかへ、しよぼ/\とみなえてく。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うまでじやうたかぶつたところへ、はたと宿やどからさがしに一行いつかう七八人しちはちにん同勢どうぜい出逢であつたのである……定紋じやうもんいた提灯ちやうちん一群いちぐんなかツばかり、念仏講ねんぶつかうくづれともえれば、尋常じんじやう遠出とほで宿引やどひきともえるが
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)