大鼾おおいびき)” の例文
もう一人のお客さんは、入り口の方にりかかってこくりこくりやって御座ござったが、やがて、アヴァランシュのような大鼾おおいびきをかき初めた。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
其の降る中をビショ/\かつがれてくうち、新吉は看病疲れか、トロ/\眠気ざし、遂には大鼾おおいびきになり、駕籠の中でグウ/\とて居る。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ようやくこれへお下りになったようなわけで……お行水ぎょうずいを召されるやいな、大鼾おおいびきをかいてお寝みになられていたものですから。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分のそばには運転手や助手達が三四人も大鼾おおいびきで寝ていた。隆山は寝床に腹這ったまま手紙のようなものを書いている。
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
こうしの冷肉を一皿とクワス一本をたいらげてから、広大無辺な我がロシア帝国の地方によっては、よく言い草にされている、いわゆる『ふいごのような大鼾おおいびき
文覚は先程から船底にあって、木の葉に揺れる舟を心地よい揺籠ゆりかごと心得たかあたりはばからぬ大鼾おおいびきで、荒れ狂う海など知らぬ気に眠りつづけている。
遠慮を知らぬ金博士のことであるから、あわてるチーア卿を相手にせず、ごろりと横になると、はやぐうぐうと大鼾おおいびき
我は北国の野人であると皮肉って、梅漬を実ながら十四五喰い、大どんぶり酒をあおり、大鼾おおいびきしてした等々の話があるが、これ等は恐らく伝説であろう。
賤ヶ岳合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
だが、大人達がラジオに気をとられているうち、さきほどまで声のしていた甥が、いつのまにか玄関の石の上に手足を投出し、大鼾おおいびきねむっていることがあった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
まず媒妁人なこうどの七蔵をよび起して、今夜の首尾を確かめようと、彼女は更に次の間の障子をあけると、酔い潰れた七蔵は蚊帳から片足を出して蟒蛇うわばみのような大鼾おおいびきをかいていた。
半七捕物帳:14 山祝いの夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
草履ぞうりをはきちがえて、いや、めでたい、めでたい、とうわごとみたいに言いながらめいめいの家へ帰り、あとには亭主ていしゅひとり、大風の跡の荒野に伏せるおおかみの形で大鼾おおいびきで寝て
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「気の毒なことに、昨日まで床の上に起上がっていたが、今朝の騒ぎでとりのぼせたものか、まるっきり正体もありません。大鼾おおいびきをかいて寝ている側で二番目娘のお半さんが介抱だ」
もしこんなことを女主人おんなあるじにでも嗅付かぎつけられたら、なに良心りょうしんとがめられることがあるとおもわれよう、そんなうたがいでもおこされたら大変たいへんと、かれはそうおもって無理むり毎晩まいばんふりをして、大鼾おおいびきをさえいている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
今日はよいの内から二階へ上って寝てしまうし、小僧は小僧でこの二三日の不足に、店の火鉢の横で大鼾おおいびきを掻いている、時計の音と長火鉢の鉄瓶のたぎるのが耳立って、あたりはしんと真夜中のよう。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
一方の典韋は、宵から大鼾おおいびきで眠っていたが、鼻をつく煙の異臭に、がばとはね起きてみると、時すでに遅し、——とりでの四方には火の手が上がっている。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兄さんは、まっさきに蒲団にもぐり込んで、大鼾おおいびきをかいて眠ってしまった。こんなによく眠る兄さんを見た事が無い。僕は、ひと眠りしてから、また起きて、この日記をしたためた。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
これは横になるともう大鼾おおいびきで、邪魔になるばかりで、何の役にも立たなかった。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
寝衣ねまき炬燵こたつに掛けて置いて寒かろうからまア一ト口飲めと、義理にも云うのが当然あたりまえだのに、私が更けて帰ると、お母さんは寝酒に旨い物をべてグウ/\大鼾おおいびきで寝て仕舞い、火が一つおこってないから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今朝の顔はれぼったい。新緑の生々たる朝だ。かつて三方ヶ原の戦いのときでも、この浜松城の門を開け放しにして、敵の包囲軍を前に、大鼾おおいびきで眠ってしまったほどな人だ。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
炬燵こたつにはいって朝から酒を飲み、洋画家と共に、日本の所謂いわゆる文化人たちをクソミソに言い合って笑いころげ、やがて洋画家は倒れて大鼾おおいびきをかいて眠り、僕も横になってうとうとしていたら
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「何ですかじゃない。白昼、お庭で大鼾おおいびきをかいて、眠っている奴があるか」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ほう、感心だのう。おれのうちの女房などは、晩げのめし食うとすぐに赤ん坊に添寝そいねして、それっきりぐうぐう大鼾おおいびきだ。夜なべもくそもありやしねえ。お前は、さすがに出征兵士の妻だけあって、感心だ、感心だ。」
(新字新仮名) / 太宰治(著)