土嚢どのう)” の例文
雨の中に、石や土嚢どのうを積み、また、森の大木をたおして、乱雑なる防塞ぼうさいを組み、部将から足軽の下まで人間力の限界まで、働きあった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風呂敷、米俵の類を集めて、土俵、土嚢どのうを造った。隊士も、百姓も、土を掘って米俵へつめては、篝火かがりびの燃えている下へ、いくつも積上げた。
近藤勇と科学 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
しかし人の話に、壮烈な進撃とは云っても、実は土嚢どのうかざして匍匐ほふくして行くこともあると聞いているのを思い出す。そして多少の興味をがれる。
あそび (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ウルシ塗りの箱が土嚢どのうがわりに使われていて、その箱の上に中国兵がうつぶせになって死んでいるのも見られた。その箱にどうやら豚の毛が入れてあるらしい。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
その時両軍の兵士は、この暗い中で、わずかの仕切りをさかいに、ただ一尺ほどの距離を取っていくさをした。仕切は土嚢どのうを積んで作ったとかA君から聞いたように覚えている。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
貞之助はしばらく足を休めるつもりで線路から駅の構内へ這入はいったが、既に駅前の道路には水が一杯になっており、構内にも刻々浸入しつつあるので、入口に土嚢どのうむしろを積み上げて
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ジリジリと皮膚の焦げる何とも言えぬ異様ななまぐささがプウンと鼻をいて、人垣と人垣の間や往来に散らばった土嚢どのうのような蒲団の隙間から、ガヤガヤと黒い影が大声にののしり合っていた。
生不動 (新字新仮名) / 橘外男(著)
煉瓦れんがなどが、ボールほどの大きさにくだかれ、天井裏てんじょううら露出ろしゅつし、火焔かえんに焦げ、地獄のような形相ぎょうそうていしていたが、その他の町では、土嚢どのうの山と防空壕の建札たてふだと高射砲陣地がものものしいだけで
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
莫大ばくだいな砲兵隊は、今日いわゆる「ワーテルローの博物館」があるあの場所に、土嚢どのうで隠されていた。ウェリントンはなおその上、ソマーセットの近衛竜騎兵千四百騎をあるくぼ地に有していた。
と、孔明の計を奉じて、土嚢どのうせきを一斉にきった。さながら洪水のような濁浪は、闇夜あんやの底を吠えて、曹軍数万の兵を雑魚ざこのように呑み消した。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ありの穴を蹴返けかえしたごとくに散り散りに乱れて前面の傾斜をじ登る。見渡す山腹は敵の敷いた鉄条網で足をるる余地もない。ところを梯子はしごにな土嚢どのう背負しょって区々まちまちに通り抜ける。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ロップ島の原地人たちは、いちどきに立ちあがって、その中に立っていた一人の若い女をかつぎあげて、クイクイの神の立っている前に、まるで土嚢どのうでもなげだすように荒っぽく、どんとおいた。
太平洋魔城 (新字新仮名) / 海野十三(著)
橋のたもとに土嚢どのうが積んであって、鉄カブトをかぶった日本兵が付け剣の小銃を持って立っていた。通行人の検問所である。橋を渡って向うへ行く者、向うから来る者を、日本兵が尋問している。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
三、三江城の城壁下に至らば、土のふくろを積んで捨てよ。土嚢どのうの山、壁のたけひとしからば、直ちに踏み越え踏み越え城内に入れよ。くとはやく入りたる者には重き恩賞あるぞ。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
になっている梯子はしごは壁に懸けるため、背負しょっている土嚢どのうは壕をうずめるためと見えた。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
孫乾そんけん西河さいかの岸に舟をそろえて避難民を渡してやるがよい。糜竺はその百姓たちを導いて、樊城へ入れしめよ。また関羽は千余騎をひきいて、白河はくが上流に埋伏まいふくして、土嚢どのうを築いて、流れを
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二、兵一名に土嚢どのう一個の割に次々令に従って行軍せよ。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「土をかつげ。土嚢どのうを盛れ」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)