唐松からまつ)” の例文
或時長頭丸即ち貞徳ていとくが公をうた時、公は閑栖かんせい韵事いんじであるが、やわらかな日のさす庭に出て、唐松からまつ実生みばえ釣瓶つるべに手ずから植えていた。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
見よとことば戰かひ洒落も凍りて可笑をかしきは出ず峯には櫻たにには山吹唐松からまつ芽出めだしの緑鶯のをり/\ほのめかすなど取あつめたる景色旅の嬉しさ是なりと語りかはして
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
例の書生は手桶ておけげて、表の方から裏口へ廻って来た。飲水をむ為には、唐松からまつの枝で囲った垣根の間を通って、共同の掘井戸までいかなければ成らなかった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
御岳みたけ、飛龍山、唐松からまつ、猿山などという部落づたいに龍巻村へ向うのが順当なのであるが
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
南は標高二八四一米のレンゲ岳(また)に始まり、うねうねと屈曲していはするものの、大体において真北を指し、野口五郎のぐちごろう烏帽子えぼし蓮華れんげはりじい鹿島槍かしまやり五龍ごりゅう唐松からまつ等を経て北
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
色あるきぬ唐松からまつみどり下蔭したかげあやを成して、秋高き清遠の空はその後にき、四脚よつあしの雪見燈籠を小楯こだてに裾のあたり寒咲躑躅かんざきつつじしげみに隠れて、近きに二羽のみぎは𩛰あさるなど、むしろ画にこそ写さまほしきを
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
起す松唐松からまつ杉檜森々しん/\として雨ならずとも樹下このしたうるほひたり此間このあひだに在りて始めて人間の氣息ゆるやかなるべきを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
昔の宿場風の休茶屋には旅商人たびあきんどの群が居りました。「唐松からまつ」という名高い並木はきり倒される最中で、大木の横倒よこたおしになる音や、高い枝の裂ける響や、人足の騒ぐ声は戦闘いくさのよう。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
白樺や山毛欅ぶな唐松からまつの梢吹く凉しい風に松蘿さるをがせの搖ぐ下に立つことが出來るかと思ふと、昭和の御世みよが齎らしてゐる文明が今のわれ等を祝福してゐてくれると誰も感ぜずには居られまい。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
白馬——唐松からまつ——五龍——鹿島槍かしまやり——はり——蓮華れんげ——烏帽子えぼし——野口のぐち五郎——三俣蓮華みつまたれんげ——黒部くろべ五郎——かみたけ——楽師やくし——鷲岳——雄山おやま——大汝おおなんじ——別山べっさん——剣……といったような計画を
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)