のど)” の例文
その刹那に運命が今一度不遠慮に我々を愚弄した。鱷はのどをふくらませて、又曖気をした。想ふに、餌が少々大き過ぎたと見える。
「なぜ白状しないか」と叫んで玄機は女ののどやくした。女はただ手足をもがいている。玄機が手を放して見ると、女は死んでいた。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
おうなは忽ち身を起し、すこやかなる歩みざまして我前に來て云ふやう。能くも歌ひて、身のしろをち得つるよ。のどの響はやがて黄金こがねの響ぞ。
動悸がのどの下までしたやうなことがありましても、兎に角わたくし共はモスコエストロオムの渦巻にだけは巻かれずに済んでゐたのでございます。
うづしほ (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
スタニスラウスは一層居丈高になつて、のどつかえて眠つてゐる詞を揺り醒ますやうに、カラの前の方を手まさぐつた。
祭日 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
のどを緊められても出すは変りませんよ。間は金力には屈しても、腕力などに屈するものか。憎いと思ふならこのつらを五百円の紙幣束さつたばでおたたきなさい」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
岩谷は柔道も達者で、戯れに銀子の松次を寝かしておいてのどを締め、息の根を止めてみたりした。二度もそんなことがあり、一度は証書を書かせたりした。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
女は死人しにんのような顔色かおいろになって、口をいたままで聞いている。男の言う事が分らない。分らせたくない。冷やかな、恐しいある物がのどを締めつけているようである。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
その鳩は白くて温かで、のどの下に丁度匕首で刺されたやうな、血痕のやうな、赤い斑を持つてゐる。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
庚娘はにげることができないと思ったので、急いで自分ののどを突いた。刀がなまくらで入らなかった。そこで戸をけて逃げだした。十九がそれをっかけた。庚娘は池の中へ飛び込んだ。
庚娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
彼が水戸を押えて京都を圧したるが如き、あたかもこれのどして背をつの政策にして、眼快ならざるにあらず、手利ならざるにあらず。しかれども彼はみずから大勢調子の外に立てり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
のどのおかわきを止めておあげ申すと云うだけではござりません。
これから毎朝まいてう鱷ののどへ曲つた金属のくだを插してその中からコオフイイや茶やスウプや柔かにしたパンを入れてくれると云ふ事になつた。
平生歯が出てゐたが、其歯をき出してゐる。次に平八郎らしい死骸が出た。これはのどを突いて俯伏うつぶしてゐる。今井は二つの死骸を水で洗はせた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
鶯の如きのどありといふ、美しき外國婦人の夜をとほして護り居たるに、醫者は心を勞し給ふな、本復ほんぷく疑なしといひきとぞといふ。我を伴ひ來し男の云はく。
銀子も淡い慾がないわけでもなかったが、それも棒がのどつかえたようで、気恥ずかしい感じだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
りますから、のどなり胸なり、ぐつと一突ひとつきつておしまひ遊ばせ。ええ、もう貴方は何を遅々ぐづぐづしてゐらつしやるのです。刀の持様もちやうさへ御存じ無いのですか、かうして抜いて!
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
猩々は最初いたづらをする積りであつたのに、夫人が叫びながら振り放さうとするので、獣もそれに抗抵するうちに気が荒くなつたらしい。猩々は力一ぱい剃刀でのどを切つた。
羽は滑かで、足には鱗が畳なつてゐて、のどは紫掛かつて赤く、嘴は珊瑚色をしてゐる。皆むく/\太つてゐるのに、争つて粒をついばんでゐる。この卑しい餌を食ふのが得意らしい。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
のどの天井から恐ろしい勢で火燄かえんが涌き出る。11645
岡田が手を洗っている最中に、それまで蛇ののどから鳥の死骸を引き出そうとしていた小僧が、「やあ大変」と叫んだ。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
鱷は先づ横に銜へてゐたイワンを口の中で、一こね捏ねて、足の方をのどへ向けて、物を呑むやうな運動を一度した。イワンの足が腓腸ふくらはぎまで見えなくなつた。
おん身の才と云ひおん身ののどと云ひと、猶詞を繼がんとするを、フアビアニは押しとゞめて、止めよ/\、さる挨拶を受くることは猶不慣なるべし、紹介とやらんも最早濟みたるべければ
「まあれさうに見せかけるのさ。」女はのどで笑ひながら
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
あの方がいらっしゃるとのどを締められるようですの。
「御膳ものどへは通りませんから……」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
佐野さんがお蝶ののどを切ってから、明りを消して置いて、自分が死んだのだろうと、刑事係が云った。
心中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
死骸らしい物のある奥の壁際かべぎはに、平八郎はさやを払つた脇差わきざしを持つて立つてゐたが、踏み込んだ捕手とりてを見て、其やいばを横にのどに突き立て、引き抜いて捕手の方へ投げた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その手をのどの下に持って行ってえりを直す。直すかと思うと、その手を下へ引くのだが、その引きようが面白い。手が下まで下りて来る途中で、左の乳房を押えるような運動をする。
心中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「見事じゃ。とどめは己が刺す」九郎右衛門は乗り掛かってのどを刺した。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
小川はのどが乾くので、急須きゅうすに一ぱい湯をさして、茶は出ても出なくても好いと思って、直ぐに茶碗に注いで、一口にぐっとんだ。そして着ていたジャケツも脱がずに、行きなり布団の中に這入った。
鼠坂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)