吉野紙よしのがみ)” の例文
烏瓜の花は「花の骸骨がいこつ」とでも云った感じのするものである。遠くから見ると吉野紙よしのがみのようでもありまた一抹の煙のようでもある。
烏瓜の花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
戸をけると、露一白つゆいっぱく芝生しばふには吉野紙よしのがみを広げた様な蜘網くものあみが張って居る。小さな露の玉を瓔珞ようらくつらぬいたくもの糸が、枝から枝にだらりとさがって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
さる子細しさいあればこそ此處こゝながれにおちこんでうそのありたけ串談じようだん其日そのひおくつてなさけ吉野紙よしのがみ薄物うすものに、ほたるひかりぴつかりとするばかりひとなみだは百ねんまんして
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
玲瓏れいろうつてふんですか、自分じぶんも、うでも、むねなんぞはちゝのなり、薄掻卷うすかいまきへすつきりといて、うつつて、眞綿まわた吉野紙よしのがみのやうにおさへて、ほねつゝむやうなんです。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
からすうりの花は「花の骸骨がいこつ」とでもいった感じのするものである。遠くから見ると吉野紙よしのがみのようでもありまた一抹いちまつの煙のようでもある。
からすうりの花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
さる子細あればこそ此處の流れに落こんで嘘のありたけ串戲に其日を送つて、情は吉野紙よしのがみの薄物に、螢の光ぴつかりとする斗、人の涕は百年も我まんして
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ここできりの箱も可懐なつかしそうにだきしめるように持って出て、指蓋さしぶたを、すっと引くと、吉野紙よしのがみかすみの中に、お雛様とお雛様が、紅梅白梅こうばいはくばいの面影に、ほんのりと出て、口許くちもと莞爾にっことしたまう。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さる子細あればこそ此処ここの流れに落こんでうそのありたけ串談にその日を送つて、なさけ吉野紙よしのがみの薄物に、ほたるの光ぴつかりとするばかり、人の涕は百年も我まんして
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
分けて今度の花は、おいちどのがいたあかい玉から咲いたもの、吉野紙よしのがみかすみで包んで、つゆをかためた硝子ビイドロうつわの中へそっしまつても置かうものを。人間の黒い手は、此を見るが最後つかみ散らす。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)