はこ)” の例文
女はその最後の不幸の中にもう一つ女であるということからの不幸のはこを蔵していることは、私たちを沈思させる事実だと思う。
「パンドラのはこ」という題については、明日のこの小説の第一回に於て書き記してあるはずだし、此処ここで申上げて置きたい事は、もう何も無い。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「わが父、孫堅を殺したかたきはこにいれて、本国へ送れ。蘇飛そひの首と二つそろえて、父の墳墓を祭るであろう」と、罵った。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お庄はせッせと札をはこへしまい込んで、蒲団ふとんの上に置いた。まだ寝るには早かった。三人は別の部屋へ散って行った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
鞄カラ鍼ノはこヲ取リ出シタリ、アルコールデ消毒シタリスル細カイ作業ハ鈴木氏自身デスルケレドモ、常ニ弟子ノ一人ガ附キ添ッテウシロニ控エテイル。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
我また見しにかの鷲はじめのごとく舞下りて車のはこの内に入り己が羽をかしこにちらして飛去りぬ 一二四—一二六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
、永久にはこの中に蔵って置かれるおつもりですか、それとも、善い買手を求めてお売りになるおつもりですか。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
乾隆六年、嘉興かこうの知府を勤める楊景震ようけいしんが罪をえて軍台に謫戍てきじゅの身となった。彼は古北の城楼に登ると、楼上に一つのあかがねのはこがあって、厳重に封鎖してある。
一年の後、川村氏は既に什器の事を忘れてゐると、或日品川へ一のはこが漂着した。幸に封緘もとの如くで、上に題した宛名もえなかつたので、此エパアヴは川村氏の手に達した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そして深い溜息ためいきをつき、やがてさもさも惜しそうに、元のはこの中へしまった。
葦は見ていた (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
はこの中には、父親が若いころ、時の流行にかぶれて道楽にかいた書画にした大小の雅印が入れてあった。銅の糸印いといんなどもまじっている。蝋石の頭に獅子ししつまみを彫った印材のままのものがある。
謹んで秘密のはこたる我が行衛ゆくゑに、生涯手を触るまじきものなりと。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
ああ人間たち! 本当に、諸神が昔パンドーラに種々の贈物をされた時、私が何心なく希望をはこの下積みに投げ入れたのはよいことであった。
対話 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ところが半月ほどすると、太守公孫康の使者は、ここに到着し、書を添えて、はこに入れた塩漬の首二を正式に献じた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
別に、附属品を収めた小型の桐のはこがあって、中に琴柱ことじ琴爪ことづめとが這入っていた。琴柱は黒っぽい堅木かたぎの木地で、それにも一つ一つ松竹梅しょうちくばいの蒔絵がしてある。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
仙台の新聞に「パンドラのはこ」という題の失恋小説を連載する事になって、その原稿発送やら、電報の打合せやらで、いっそう郵便局へ行く度数が頻繁ひんぱんになった。
親という二字 (新字新仮名) / 太宰治(著)
また、漢中に出征中の曹操からも、変を聞いて、薛悌せっていという者を急派してきた。これは曹操の作戦指導を、はこに封じて、もたらして来たものだった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このごろ私は、仙台の新聞に「パンドラのはこ」という長篇小説を書いているが、その一節を左に披露して、この悪夢に似た十五年間の追憶の手記を結ぶ事にする。
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
すなわち彼は、檻車の中に囚えてきた范疆、張達の二しゅうに添うるに、なお沈香の銘木で作ったはこ塩浸しおびたしとした張飛の首を封じ、併せて、蜀帝玄徳の前にさし出した。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕たちは結核患者だ。今夜にも急に喀血かっけつして、鳴沢さんのようになるかも知れない人たちばかりなのだ。僕たちの笑いは、あのパンドラのはこ片隅かたすみにころがっていた小さな石から発しているのだ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「この風来人め、詭弁きべんをやめよ。あのはこの中には、つい近頃、がせたばかりの宝剣があるぞ」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
君はギリシャ神話のパンドラのはこという物語をご存じだろう。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
紫金襴の嚢には、金糸銀糸で瑞鳳彩雲ずいほうさいうん刺繍ぬいがしてあった。打紐うちひもを解いてみると、中から朱いはこがあらわれた。その朱さといったらない。おそらく珊瑚朱さんごしゅ堆朱ついしゅの類であろう。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はこの中から一封の書簡を取り出して、これを見よ! と高定の前へ投げやった。まぎれもない朱褒しゅほうの手蹟であった。彼はもう逆上していて、それを読む手もふるえてばかりいた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
魏の将士はあやしみつつ陣門へ通し、やがて、使者の乞うまま司馬懿しばい仲達に取り次いだ。司馬懿はまずはこを開いてみた。——と、匣の中からは、あでやかな巾幗きんかく縞衣こういが出てきた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一日、孔明は、一使を選んで、自筆の書簡と、美しき牛皮のはことを託した。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)