剛愎ごうふく)” の例文
小親きて、泣く泣く小六の枕頭まくらもとにその恐しきこと語りし時、かれ剛愎ごうふくなる、ただひややかに笑いしが、われわれはいかに悲しかりしぞ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と藤左衛門は、この古武士のような剛愎ごうふくの老人をながめて感嘆の声を洩らした。背後うしろたたずんだ菅谷半之丞をそっと顧みても、また云った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
摂政となって二年目(一八六六)、当時潜入中の仏人天主教宣教師十二名中九名を断首して、剛愎ごうふくな排外主義の火蓋を切った。
撥陵遠征隊 (新字新仮名) / 服部之総(著)
精悍せいかん剛愎ごうふくの気象が満身に張切はりきってる人物らしく推断して、二葉亭をもまた巌本からしばしば「哲学者である」と聞いていた故
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
剛愎ごうふくな忠次も、打ち続く艱難かんなんで、少しは気が弱くなっているせいもあったのだろう。別れるのなら、いっそ皆と同じように、別れようと思った。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
剛愎ごうふくそうな口はきいているものの、内心には暗いおもいが根を張っていて、それが表面ににじみ出ているようだ。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
才幹あり気概ある人で、恭謙にして抑損し、ちとの学問さえあった。然るに酒をこうぶるときは剛愎ごうふくにして人をしのいだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
大学はもともと剛愎ごうふくな独善家だったが、さらに藩家の一門である伊達兵部少輔から信任され、四国老のなかでは、誰よりも大きな権力と威勢を張っていた。
剛愎ごうふくそのものの丹波、伊賀の暴れん坊がこの屋敷に入りこんでいることを、さわらぬ神にたたりなしと、今まで知らぬ顔をしてきたものの、もうやむを得ない。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
剛愎ごうふくらしい男ですが、重なる不祥事に、さすがに気を腐らせて居る様子です。
銭形平次捕物控:245 春宵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
お庄は剛愎ごうふくなような叔父の顔を、傍からまじまじ見ていた。この会社の崩れかかっていることは、あれほど毎日集まって来た人が、にわかに足踏みをしなくなったことだけでも解ると思った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それに口ひげが傲然とはね上っているので、そのために口の端にも顎にも、なんとなく人を見くだしたような、剛愎ごうふくそうなおもむきが現われているのだ。紳士は例の勇壮な車掌になにか尋ねる。
鉄道事故 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
今まで売った剛愎ごうふくが一挙にして泥にまみれる、思わず首をすくめて
顎十郎捕物帳:02 稲荷の使 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
剛愎ごうふくな彼に似げない自嘲めいたえみを洩らすのだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
この親にして、あのお子があったか——初めて大きな実訓じっくんをうけたのだった。剛愎ごうふく、そんなことばではいいきれない頼房の胸のひろさであった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
されど剛愎ごうふく我慢なるそのさがとして今かくとりこはずかしめを受け、賤婦せんぷの虐迫に屈従して城下のちかいを潔しとせず、断然華族の位置を守りてお丹の要求をしりぞけたるなり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
恋する者の心が、競争者の出現にって、あせり出すように、勝平の心も、今迄いままでの落着、冷静、剛愎ごうふくすべてを無くしてしまった。競争者、それが何とたまらない競争者であろう。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
が、こうして夜、コッソリ屋敷をけて依頼に来た以上、ここは何とあってもこっちの味方に引き入れねば、と、山城守、平素の剛愎ごうふくはどこへやら、ほとんど泣かんばかりのおろおろ声だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もとより身は黄門こうもんの高貴にあるし、剛愎ごうふくな性情なので、ひとに屈したりへつらうことなど知りそうもないが、若い者たちの心をよく酌んで、稀に
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分の子のいやしい笑い顔を見たときに、剛愎ごうふくな勝平も、ガンと鉄槌てっついで殴られたように思った。言い現し方もないような不快な、あさましいと云った感じが、彼の胸のうちに一杯になった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ぼくの両親などは、典型的なその方の見得張りであったのか、剛愎ごうふくらしい父も、道具屋にはそんな大真面目で小心を見せていたし、母もまた母であった。
さすがに、休戦中の銃声には、剛愎ごうふくな彼も、がくとしたらしく、低い石段の途中に、その歩みを立ちすくめたまま
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
諸将は余りにも剛愎ごうふくな彼のことばに、遅疑ちぎをいだくまでもなく、はッと服命して、各〻の持場へ駈け競った。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのくせ口では、剛愎ごうふくなことをいう男がと、清盛には、ふしぎに絶えないおりがままあった。
人々は、いかに日頃の彼の剛愎ごうふくに信頼してみても、そう思わずにはいられなかった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さすが剛愎ごうふくの武家奴も、御方の腕の冴えや落着きように、先刻からすくなからず舌を巻いていたところへ、この無気味な暗示を投げられたので、何とは知らずぎょッとしたらしかった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我儘放埒わがままほうらつは、父義龍と似ているが、義龍ほどな剛愎ごうふくもなし経綸けいりんもない彼だった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
剛愎ごうふくな波多野秀治は
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)