偏屈へんくつ)” の例文
お淺に訊くと、骨身ををしまずよく働く上、少し偏屈へんくつですが正直者で、皆んなに重寶がられてゐるといふことです。
私はただKの健康について云々うんぬんしました。一人で置くとますます人間が偏屈へんくつになるばかりだからといいました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その物吝ものをしみがいか損失そんしつ折角せっかくうつくしさも、その偏屈へんくつゆゑに餓死うゑじにをして、そのうつくしさを子孫しそんにはつたへぬ。
もと/\芸人社会は大好だいすき趣味性しゆみせいから、おとよ偏屈へんくつな思想をば攻撃したいと心では思ふものゝそんな事からまたしてもながたらしく「先祖の位牌ゐはい」を論じ出されてはたまらないとあやぶむので
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
失ひ花見といへば上野か隅田すみだ又は日暮里飛鳥山人の出盛でさか面白おもしろき所へ行が本統ほんとうなるに如何常より偏屈へんくつなる若旦那とは言ながらとほき王子へ態々行夫もにぎはふ日暮里をばきらひて見榮みばえなき土地とちの音羽を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
玄竹げんちくあたまおさへて、『御城内ごじやうないで、御近習ごきんじゆられました。御城内ごじやうないりますと、これがひとつの災難さいなんで‥‥。』と、醫者仲間いしやなかまでは嚴格げんかく偏屈へんくつとできこえた玄竹げんちくも、矢張やは醫者全體いしやぜんたい空氣くうきひたつて
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
偏屈へんくつにさせる心配がおありになるせゐですよ。
母屋おもやから離れた二た間の一軒建で、もとは材木小屋の見張りに使った奉公人の住いでしたが、足が不自由で少し偏屈へんくつで、学問にばかりっている勇次郎は
それより英書でも質に入れて芸者から喇叭節らっぱぶしでも習った方がはるかにましだとまでは気が付いたが、あんな偏屈へんくつな男はとうてい猫の忠告などを聴く気遣きづかいはないから
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もともと芸人社会は大好だいすきな趣味性から、お豊の偏屈へんくつな思想をば攻撃したいと心では思うもののそんな事からまたしても長たらしく「先祖の位牌」を論じ出されてはたまらないとあやぶむので
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ともとしたのしみゐるこそ樂みなれといと物堅き長三郎が回答いらへにべなく言放いひはなすに忠兵衞今は詮方せんかたなく是ほど迄に勸めるに承引うけひく景状けしきあらざるは世に偏屈へんくつなる若旦那と霎時しばしあきれて居たりしが屹度きつとこゝろに思ひ附く事や有けんひざ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
店口にぼんやりしてゐるのは、内儀の弟の駒吉、八五郎の報告で偏屈へんくつ人とは聞きましたが、無愛想ではあるにしても見たところいかにも恰幅のいゝ、柔和にうわな顏の男です。
何でも年賀の客を受けて酒の相手をするのが厭らしい。人間もこのくらい偏屈へんくつになれば申し分はない。そんなら早くから外出でもすればよいのにそれほどの勇気も無い。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「書物は商買道具で仕方もござんすまいが、よっぽど偏屈へんくつでしてねえ」迷亭はまた別途の方面から来たなと思って「偏屈は少々偏屈ですね、学問をするものはどうせあんなですよ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
滅多に俗人とは口もきかないといふ恐ろしい偏屈へんくつ人になつてしまつてゐるのでした。
三年前に父親が死んで私が引取つたのですが——尤も父親といふのは偏屈へんくつ者で、身上しんしやうを潰した時、店も家藏も、皆んな私が引取つてやつたのを、私が買ひつぶしでもしたやうに思つて
「二郎、学者ってものはみんなあんな偏屈へんくつなものかね」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「皆、信用がおけます。をひの與之助は少し偏屈へんくつですが、無類の正直者で、手代の直次郎は男が好いので、少し浮氣つぽいところがありますが——あ、この二人は川へ落ちて、半死半生の目に逢つた方でした」