便宜よすが)” の例文
まだまつたてないけむり便宜よすがに、あからめもしないでぢつときをんな二人ふたりそろつて、みはつて、よつツのをぱつちりとまたゝきした。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その後ふたたびかの場所へ行ってみると、そこらには草木が一面におい茂っているばかりで、むかしの跡をたずねる便宜よすがもありませんでした。
どちらをどちらとけかぬる、二人のこころを汲みて知る上人もまたなかなかに口を開かん便宜よすがなく、しばしは静まりかえられしが、源太十兵衛ともに聞け
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わたしは鎧戸の貫木かんぬきをはずすと、窓は前にいった裏庭にむかっているが、そこには張り出しも何もないので、切っ立てになっている壁を降りる便宜よすがもなく
異国に渡りて碧眼奴あをめだまどもを切り従へむこそ相応ふさはしけれと思ひ定めつ。渡船の便宜よすがもがなと心掛けりくうち、路用とても無き身のいつしか窮迫の身となりぬ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
九十九つくも島は、雲仙からくだる自動車道路からはわずかに南端の数島が見え、また南風楼なんぷうろうの方からは、北端の数島が見えるだけで、島原の町に入ると、そこは湾入した港で、島を眺める便宜よすがはなく
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
相手は暗い中に忍んでいるので、どこの誰と見定める便宜よすがもないが、それがかの怪しい異国の男の仕業であるらしいことは誰にも想像された。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ただただのみをもってはよく穿らんことを思い、かんなを持ってはよく削らんことを思う心のたっとさは金にも銀にもたぐえがたきを、わずかに残す便宜よすがもなくていたずらに北邙ほくぼうの土にうず
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
家の職を奪われ、あるいは遠流おんるの身となっては、再び悪魔調伏の祈祷を試むる便宜よすがもない。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かんなを持つては好く削らんことを思ふ心の尊さは金にも銀にもたぐへ難きを、僅に残す便宜よすがも無くて徒らに北邙ほくばうの土にうづめ、冥途よみぢつとと齎し去らしめんこと思へば憫然あはれ至極なり、良馬しゆうを得ざるの悲み
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
さてはここにも何か椿事ちんじおこっているに相違ないと、忠一も驚いて身構えしたが、燐寸まっちを持たぬ彼はやみてらすべき便宜よすがもないので、抜足ぬきあししながら徐々そろそろと探り寄ると、彼はたちま或物あるものつまずいた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
那方どちらを那方と判かぬる、二人のこゝろを汲みて知る上人もまた中〻に口を開かん便宜よすがなく、暫時は静まりかへられしが、源太十兵衞ともに聞け、今度建つべき五重塔は唯一ツにて建てんといふは汝達二人
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
河中かわなかに岩石突兀とっこつとして橋を架ける便宜よすがが無いのと、水勢が極めて急激で橋台きょうだいを突き崩してしまうのとで、少しく広い山河やまがわには一種のかごを懸けて、旅人はの両岸に通ずる大綱おおづな手繰たぐりながら
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)