佩刀はいとう)” の例文
関白が政宗に佩刀はいとうを預けて山へ上って小田原攻の手配りを見せたはなしなどは今しばらく。さて政宗は米沢三十万石に削られて帰国した。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
近習の一人は、気を利かせたつもりで、小姓の持っていた忠直卿の佩刀はいとうを彼に手渡そうとした。が、忠直卿はかえってその男をしりぞけた。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
甲斐は半ば残っている杯の酒を、火にかざして眺めていたが、その眼をあげてふと、大和守のうしろに佩刀はいとうささげている小姓に向けた。
やんわり片手を飾り造りの佩刀はいとうにかけたかと見えたが、果然、謎の宗十郎頭巾が折紙つけたごとくその態度が一変いたしました。
うむ、(きらりと佩刀はいとうを抜きそばむるとひとしく、藁人形をそのけものの皮に投ぐ)やあ、もはやちんじまいな、おんな。——で、で、で先ず、男は何ものだ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貝十郎否といわば、自身手を下して殺すとばかり、そういうと意次は佩刀はいとうへ手をかけ、廻廊からユラリと庭へ下り立ち、お浦の方へ刻み足して進んだ。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
また仲間うちでも、のッぺり顔のおとこをえらんで、これには、宿元景の衣服佩刀はいとうをそっくり体に着けさせる。そして
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして根際ねぎわになったところもことごとく内へ入って、前の盆のようにひろかった腫物とは思われなかった。そこでうすものの小帯から佩刀はいとうをぬいた。その刀は紙よりも薄かった。
嬌娜 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ついには尊敬されて名主ともなり、また幕府からも大いにめられて、苗字みょうじ佩刀はいとうをも許されました。
伊能忠敬 (新字新仮名) / 石原純(著)
言われぬの掛合のうちに政岑は焦立いらだって来、佩刀はいとうをひきつけて片膝を立て、いまにも斬りつけるかという切羽詰ったようすになったので、主水も覚悟をきめたらしく
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
御腰物方から、東照宮伝来の佩刀はいとうを頼まれたのは去年の夏、五兵衛に拵えを直させて、石川良右衛門の家へ持って来ると、ある夜泥棒が入って、それをられてしまいました。
そして数日間遠足留えんそくどめを命ぜられていたが、後には平常の通心得べしと云うことになった。射撃したと答えたものの所へは、砲隊組兵卒に下横目が附いて来て、佩刀はいとうを取り上げた。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
出府と同時に、本所法恩寺前の鈴川源十郎方に身をよせた左膳は、日夜ひそかに鉄斎道場を見ていると、年に一度の秋の大仕合に、乾雲坤竜が一時の佩刀はいとうとして賞に出るとのうわさ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
仕様書をひっくりかえしたような見積りをつくり、理屈と佩刀はいとうにものを云わせたのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
自身は佩刀はいとうを抜いて身構えたまま生きた心地もなくぶるぶるふるえていたという。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
と、例の木訥な農夫は殆んど怒りを表はして斯うなじつた。すると駐在所の巡査は、群衆の陰から肩を聳やかして、佩刀はいとうをガチャ/\いわせたのだ。半左右衛門はしどろもどろとなつたのである。
村のひと騒ぎ (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
政宗に自分の佩刀はいとうを持たせて、後に従えさせてただ二人で小高き所に上り、いろいろ説明をきかせたのは、有名な話しである。
小田原陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そして、先夜の佩刀はいとうを取りよせ、抜いて、上皇のお目にかけた。それは、銀泥ぎんでいを塗った竹光たけみつであったのである。
団兵衛が芝生の上へ端然と坐ると、光政は佩刀はいとうを抜いてつっと背後へ回った。
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
自分の佩刀はいとうと差しかえて、残して行く刀は、千浪の手へ。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その上に、惣八郎は秘蔵の佩刀はいとう目貫めぬきに、金の唐獅子の大きい金物を付けていた。それを彼は自慢にしているようであった。誰かに来歴をきかれると
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「それと、城内のおきてでござるが、ご所持のもの、ご佩刀はいとうなどは、おあずかりもうせとのことでござりますが」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういって、信長は二文字国俊にもんじくにとし佩刀はいとうを与えた。
蒲生鶴千代 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
持っていた柿団扇かきうちわ(軍配)のひも佩刀はいとうの環にくくり付けると、井楼の雁木がんぎに足を懸け始めた。小姓たちは、その尻を押し上げ押し上げ、人梯子ひとばしごを重ね上げた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頼母は、すでに怪しい物音に気がつくと、手早く寝間着の上に帯を締め、佩刀はいとうを引き寄せていたのである。
仇討禁止令 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
と叫んだ忠直卿は、膝に置いていた両手をぶるぶると震わせたかと思うと、どうにも堪らないように、小姓の持っていた長光ながみつ佩刀はいとうを抜き放って、家老たちの面前へ突きつけながら
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そういって、それぞれに、黄金、時服、佩刀はいとうなどの賞をかった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は小姓の持っている佩刀はいとうを取って、即座に両人を切って捨てようかと意気込んだが、そうした激しい意志を遂げる強い力は、この時の彼の心のうちには少しも残ってはいなかった。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
金の唐獅子はあいかわらず惣八郎の佩刀はいとうつかに光って、甚兵衛の気持を悪くした。
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)