交〻こもごも)” の例文
新刊の『活文壇』は再三上野三宜亭さんぎていに誌友懇談会を開き投書家を招待し木曜会の文士交〻こもごも文芸の講演を試むる等甚つとむる処ありしが
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
と、手燭てしょくをかざして、寺の庭を、奥ふかくまで導きながら、羽柴家の人々は、交〻こもごもにいい訳をのべて、客に謝するのであった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妙子の遭難の顛末てんまつについては、その夜当人と貞之助とが交〻こもごも幸子に語ったことであったが、今そのあらましを記すと次のような訳であった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
天保の初年から天候が不順で旱天と洪水とが交〻こもごも襲い夏寒く冬暑く日本全国の田や畑には実らない作物が枯れ腐って凶年の相を現わしたが、俄然大飢饉が見舞って来た。
開運の鼓 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
万感交〻こもごも到ったよ。親を喜ばしたことのない一生だと思うと、それが一番辛かった。これから孝行を尽すどころじゃない。逆さを見せて終るのかと思ったら、泣いちゃったよ。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
(九四)曠日くわうじつ彌久びきうして(九五)周澤しうたくすであつきをば、ふかはかるもうたがはれず、交〻こもごもあらそふもつみせられず、すなはあきらか利害りがいはかりてもつ其功そのこういたし、ただちに是非ぜひしてもつ(九六)其身そのみかざる。
何より彼女がうれしかったのは、御牧や国嶋が妙子を遇するにそれとなく意を用い、交〻こもごも彼女に胸襟きょうきんを開いて話しかけてくれたことであった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と二人が酒を酌みながら、交〻こもごも話しだした事の顛末てんまつ。新九郎は聞く度ごとに眼をみはった。その実相というのはこうであった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは悲喜交〻こもごもの感情ともいえれば夢に夢見る心持ちとも云えた。左門が自分の味方として現われ出て来たことは、何んといっても頼母にとっては有難い嬉しいことであった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ここは三位中将維盛の第宅であったが、明りもなく人気もない館のうちを、土足の郎党らしい者七、八名が、交〻こもごもに声をからして呼び廻っていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幸子は奥畑と雪子とが交〻こもごも語るのを聞き終ると、取りえず二階へ上らしてもらった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一同は奇遇に驚いて、交〻こもごもこれまでの身の上を話した。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
はからずも先頃、吉岡道場にて、けいの名を聞く。万感交〻こもごも、会わんか、会わざらんか、迷うて今、酒店に大酔を買う。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不幸にして事実であった場合にも、当人達にきずをつけないように、誰にも知られないようにして手を切らせるのが最上の策ではないであろうか、———等々のことが交〻こもごも頭に浮かんだが、それよりも
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と、恐縮と疑惑と、迷いと否定と、交〻こもごもな気もちに乱れて、まるで心の滅走めっそうした人間のように、茫然と手を離した。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
越前守は、交〻こもごも、二人から訊かれているうちに、かえって、その質問に、ほっと、救われたような顔をした。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旅に在る日とか、何かの公用で、夫婦離れてある日など、こうして妻から良人から、交〻こもごもに筆の便りを交わすことの仲のよさは——今に始まったことではない。
政子は、終始、良人と共に、交〻こもごも祝いをのべる武士に、ほんのわずか、黙礼を施しているだけであった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
交〻こもごもに午前のうちに見えては帰って行ったが、まだ浅野大学も謹慎中きんしんちゅうであるし、幕府に対するはばかりがあって、五万石の大名ともある人の百ヵ日としては寂しいものであった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四人が交〻こもごも乗り代っては駈けたりなどして来ましたので、存外、道に手間どりました。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長途の仕事はくるしいにきまっている。当夜の諸兄の交〻こもごもな鞭撻と愛情のおことばはまことにうれしかったが、ぼく自身はこれの終わるまで風雪の道を黙ってテクテク歩いていたい。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
車座になって、その中に交〻こもごも人が立って、みんな礼拝らいはいの形をとって。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちおろしの中身なかごを一見して、二人は、交〻こもごもに、驚嘆した。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、悲しむ味方の声とが、交〻こもごもに、諸角豊後の耳に聞えた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
などと交〻こもごもに、かれの前には、別辞をのべる者が立った。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんでまいるか。ただ交〻こもごも飲むだけでは、興もない」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、交〻こもごも