世事せじ)” の例文
お登和や安心するがいい、広海さんの方で名案が出たよ。小山君、さすがに広海子爵は世事せじに老功だけあって我々とは考えが違う。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
戒厳令布かれたる号外売る鈴の音かまびすしき裡に在りて、泰然釣を垂れ、世事せじを一笑に附し去りて顧みず。釣者誠に仙客せんかくなるかな仙客なるかな。
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
「あ、今日は節分かしらん」と思って、清三は新聞の正月の絵付録日記を出してみた。それほどかれは世事せじにうとく暮らした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
生きているひとなら力になりそうなものだが世事せじ雑多ざっただ。生きている同士はかえって、ほんの心の友にも力にもなれない。——そこへゆくと、古人にそれを
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少し鈍と思われるほど世事せじにうとく、事物のほんとうの姿を見て取る方法に暗いながら、まっ正直に悪意なくそれをなし遂げようとするらしい目つきだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これはやはり日本こちらでも同じ事で、著作ちよさくでもなさるかたは誠に世事せじうといもので、何所どこかん所があります、学問がくもんにもぬけてゐてもなにかにうといところがあるもので
西洋の丁稚 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
あひ宿しゆくで、世事せじよういさゝかもなかつたのでありますが、可懷なつかしさあまり、途中とちう武生たけふ立寄たちよりました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
世事せじ繁多はんたなれば一時夫婦の離れ居ることもあり、また時としては病気災難等の事も少なからず。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
戀とは言はず、情とも謂はず、ふや柳因りういんわかるゝや絮果ぢよくわ、いづれ迷は同じ流轉るてん世事せじ、今は言ふべきことありとも覺えず。只〻此上は夜毎よごと松風まつかぜ御魂みたますまされて、未來みらい解脱げだつこそ肝要かんえうなれ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
見慣みならひて平生へいぜいはすはにそだちしは其の父母の教訓をしへいたらざる所なり取譯とりわけはゝこゝろよこしまにて欲深よくふかく亭主庄三郎は商賣しやうばいの道は知りても世事せじうと世帶せたいは妻にまかおくゆゑ妻は好事よきことにしてをつとしりき身上むき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これに似て日本で猫を虎になぞらえた事『世事せじ百談』に
大衆こそ、世事せじの名判官ではあるまいか。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)