下襲したがさね)” の例文
左大将、左衛門督さえもんのかみ藤参議とうさんぎなどという人たちも皆お供をして出た。皆軽い直衣のうし姿であったのが下襲したがさねを加えて院参をするのであった。
源氏物語:38 鈴虫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
綱宗の前をさがるとき、夫人が次ノ間まで送って来て、「おあか付きである」と、綸子りんず下襲したがさねを渡した。
螺鈿らでん細太刀ほそだちに紺地の水の紋の平緒ひらをを下げ、白綾しらあや水干すゐかん櫻萌黄さくらもえぎに山吹色の下襲したがさね、背には胡籙やなぐひきて老掛おいかけを懸け、露のまゝなる櫻かざして立たれたる四位の少將維盛これもり卿。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
その母親おふくろというのは、私は小児こども心に、ただ歯を染めていたのと、鼻筋の通った、こう面長な、そして帯の結目むすびめを長く、下襲したがさねか、蹴出けだしか、つまをぞろりと着崩して、日の暮方には
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
下襲したがさねの尻が簾からみ出して地に垂れたのを、誰か混雑に紛れつゝ寄って来て、手に取り上げて、簾の中へ押し入れてやった者があったが、それが平中であったのに気づいた人はほとんどなかった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ひとたびは神より更ににほひ高き朝をつつみしねり下襲したがさね
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
無紋のほうに灰色の下襲したがさねで、かむりは喪中の人の用いる巻纓けんえいであった。こうした姿は美しい人に落ち着きを加えるものでえんな趣が見えた。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
伊達家の麻布屋敷にいた伊達安芸あきは、早朝に起きて沐浴もくよくし、白の下襲したがさねを着て朝食のぜんに向かうと、涌谷わくやから供をして来た家従たち、老臣から小姓頭などに、盃を廻した。
白雪 (下襲したがさねを引いて、袖口の炎をかざし、やがて読果てて恍惚うっとりとなる。)
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そんな物の間から見えるのも女房たちの淡鈍うすにび色の服、黄色な下襲したがさね袖口そでぐちなどであったが、かえってえんに上品に見えないこともなかった。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
黒の上着の下から臙脂えんじ、紅紫の下襲したがさねそでをにわかに出し、それからまた下のあこめの赤いたもとの見えるそれらの人の姿を通り雨が少しぬらした時には
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
よいできのほうを着て、柳の色の下襲したがさねを用い、青鈍あおにび色の支那しなにしき指貫さしぬき穿いて整えた姿は重々しい大官らしかった。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
桜の色の支那錦しなにしき直衣のうし、赤紫の下襲したがさねすそを長く引いて、ほかの人は皆正装のほうを着て出ている席へ、えんな宮様姿をした源氏が、多数の人に敬意を表されながらはいって行った。
源氏物語:08 花宴 (新字新仮名) / 紫式部(著)
紅紫の指貫さしぬきに桜の色の下襲したがさねすそを長く引いて、ゆるゆるとした身のとりなしを見せていた。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と言って、掛けてある物のほかに、非常に凝った美しい衣裳いしょうそろいが贈られた。当然今日の着料になる物としてお作らせになった下襲したがさねは、色も織り方も普通の品ではなかった。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
明るい白橡しろつるばみに紅紫の下襲したがさねを着るはずであったが、今日は青い色を上に臙脂えんじを重ねさせた。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
左右の大臣、内大臣、納言以下はことごとく供奉ぐぶしたのである。浅葱あさぎの色のほうに紅紫の下襲したがさねを殿上役人以下五位六位までも着ていた。時々少しずつの雪が空から散ってえんな趣を添えた。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
新しいお直衣のうしすその長い下襲したがさねを召してお身なりをおととのえになって、客の礼に対するとうの拝礼を階下へ降りてあそばされたが、大将もりっぱであったし、宮もきわめてごりっぱなお姿と見えた。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「なんですこれは、中将の下襲したがさねなんですか。御所の壺前栽つぼせんざいの秋草の宴なども今年はだめになるでしょうね。こんなに風が吹き出してしまってはね、見ることも何もできるものでないから。ひどい秋ですね」
源氏物語:28 野分 (新字新仮名) / 紫式部(著)