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ゑんどう
空洞と
明るく
成つて
畑にはしどろに
倒れ
掛た
豌豆の
花も
心よげに
首を
擡げて
微笑する。
たゞ
折々聞るものは
豌豆の
莢が
熱い日に
彈けて
豆の
飛ぶ
音か、
草間の
泉の
私語やうな音、それでなくば
食ひ
飽た
鳥が
繁茂の
中で
物疎さうに
羽搏をする
羽音ばかり。
熟過た
無花果がぼたりと落ちる。
渡邊橋の天一坊の
旅館へ
遣はさる兩人は
玄關より
案内に及べば取次は
遠藤東次右衞門なり出て
挨拶に及ぶに兩人の
與力の申には我々は
西町奉行松平日向守
組與力なるが天一坊殿に
御重役御意得たし少々
御伺ひ申度儀ありと
述ぶ
取次の遠藤東次右衞門は
早速奧へ
斯と通ぜんと
先兩人を
企てるには金子
乏しくては大事成就
覺束なし第一に金子の
才覺こそ
肝要なれ其上にて
計らふ
旨こそあれ各々の
深慮は如何と申ければ天一坊
進出て其金子の事にて思ひ出せし事あり
某先年九州へ下りし
砌り
藝州宮島にて
出會し者あり
信州下諏訪の
旅籠屋遠藤屋彌次六と云ふ者にて彼は
相應の身代の者のよし
語ひ
置し事も有ば此者を