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しゆじんふうふ
主人夫婦の
曇らぬ
顏が
只管恐怖に
囚へられた
勘次の
首を
擡げしめた。
殊に
内儀さんの
迎へて
聞く
態度が、
彼のいひたかつた
幾部分を
漸くに
打ち
明けしめた。
隣の
主人の
家族は
長屋門の一
部に
疊を
敷いて
假の
住居を
形づくつて
居た。
主人夫婦は
勘次の
目からは
有繋に
災厄の
後の
亂れた
容子が
少しも
發見されなかつた。
卯平は
時々は
東隣の
門をも
潜つた。
主人夫婦は
丈夫だといつても
窶れた
卯平を
見ると
憐れになつて
もしこの
家扶が
下座敷にゐたまゝであつたならば
無論壓死したであらうが、
主人思ひの
徳行のために
主人夫妻と
共に
無難に
救ひ
出されたのであつた。