鮮血なまち)” の例文
最所治部の龍の口城へ、ある日一人の若侍が、父だと云う老人を連れて、さも周章あわただしく駈け込んで来た。手足から鮮血なまちを流している。
郷介法師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかも、もりで撃った生々しい裂傷さききずの、肉のはぜて、真向まっこうあごひれの下から、たらたらと流るる鮮血なまちが、雨路あまみちに滴って、草に赤い。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私もヤレ安心と庭へ降りよふと欄干へ手を掛けると鮮血なまちがペツたり手へ附いたから、誰れかやられたなと思ひ庭にあつた下駄を一足持つて逃げたのです。
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
男はさらに壇の上から一つの土器かわらけのようなものを持ち出して来て、まだ死に切らないでうごめいている猫の傷口から真っ紅な鮮血なまちを絞り出して、土器へなみなみと注ぎ込んだ。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かれ立竦たちすくみになりてぶるぶると震えたるが、鮮血なまちたらたらと頬に流れつ、いだきたるお藤をどうと投落して、屏風びょうぶのごとく倒れたり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もう一つ、人々に奇異の感をいだかせたのは、これもいつの間にか拵えてあったと見えて、かれは新しい経帷子を膝の下に敷いていたので、その鮮血なまちが白い衣を真っ紅に染めていた。
経帷子の秘密 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
右の無名指に二個ふたつめたる宝石入の指環ゆびわみて、あっと口をおおえるとたん、指よりれて鮮血なまちたらたら、舌を切りぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
続いて𤢖の為に左のももきずつけられた。加之しかも二度目の傷は刃物で突かれたと見えて、洋袴ずぼんにじみ出る鮮血なまち温味あたたかみを覚えた。究竟つまり彼は左の片足に二ヶ所の傷を負っているのであった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
乳の下を裂いたか、とハッと思う、鮮血なまちを滴らすばかり胸に据えたは、宵に着て寝た、長襦袢ながじゅばんに、葛木が姉の記念かたみの、あの人形を包んだのである。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巡査は更に四辺あたりを見廻すと、鮮血なまちにおいみなぎる家の隅に、なお一人いちにんの若い女が倒れていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いくさは、銑吉が勝らしい。由来いかなる戦史、軍記にも、薙刀をさかさまについた方は負である。同時に、その刃尖が肉を削り、鮮血なまちかかとを染めて伝わりそうで、見る目も危い。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
赭土色あかつちいろはだで、髪の長い、手足の長い、爪の長い、人か猿か判らぬような怪物である。彼は市郎の靴で額の真向まっこうを蹴破られたと見えて、濃黒どすぐろいような鮮血なまちその凄愴ものすごい半面を浸していた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
破蚊帳やれがやから抜出したので、帯もしめない。その緋鹿の子の扱帯が、白鷺に鮮血なまちの流れるようです。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが丁度彼の右の小鬢こびんにあたって、若い男の半面は鮮血なまちに染められた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
八蔵は泰助にうらみあれば、その頭蓋骨は砕かれけん髪の毛に黒血かたまりつきて、頬より胸に鮮血なまちほとばしり眼を塞ぎ歯をしばり、二目とは見られぬ様にて、死しおれるにもかかわらず。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鹿の鮮血なまち滴るのを担いで来て、うか買って呉れという。
鮮血なまちの、唇を滴々たらたらと伝ふをて、武士さむらいと屑屋はひとのめりに突伏つっぷした。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
眉間は裂けて鮮血なまちさっ迸出ほとばしる。
池袋の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)