鮮血せんけつ)” の例文
石垣いしがきのあたりには、敵味方の死者がころがった。鼻をつく鮮血せんけつのにおい、いたでに苦しむもののうめきは夜空に風のようにひびいた。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
市民の鮮血せんけつに濡れた、アスファルト路面に、燃えあがる焔が、ギラギラと映った。横丁よこちょうから、バタバタと駈け出した一隊があった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
けるいぬほふりて鮮血せんけつすゝること、うつくしくけるはな蹂躙じうりんすること、玲瓏れいろうたるつきむかうて馬糞ばふんなげうつことのごときは、はずしてるベきのみ。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とドノバンがシャツのそでをちぎって、くるくるとゆわえた。見る見る鮮血せんけつかりほうたいをまっかに染めた。ドノバンはじっとそれをみつめた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
しやく有餘いうよ猛狒ゴリラ苦鳴くめいをあげ、鮮血せんけついて地上ちじやうたをれた。わたくし少年せうねんとはゆめ夢見ゆめみ心地こゝち韋駄天いだてんごとそのかたはらはしつたとき水兵すいへい猛獸まうじうまたがつてとゞめの一刀いつたう海軍士官かいぐんしくわん悠然いうぜんとして此方こなたむかつた。
「おや、これは不思議だ。絞殺されたのかしら」と一郎は目をみはった。「それにしても、胸許を染めている鮮血せんけつはどうしたというのだろう」
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
目前数歩のところに鮮血せんけつがこんこんと流れ、下草をくれないにそめて、ラマの巨体きょたいが横たわっている、鳥は足音におどろいて羽音高くまいあがった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
帝國軍人ていこくぐんじん鮮血せんけつ滾々こん/\とばしりかゝるのもえた。
人々の前に、少女の美しい死顔しにがおが始めてハッキリと現れたのだった。左胸部を中心に、衣服はベットリ鮮血せんけつに染っていた。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とらのためにひっかかれたと見え、左かたの服はずたずたにさけて、鮮血せんけつがこんこんと流れだしている。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
帝都の辻々に貼り出される号外のビラは、次第に大きさを加え、鮮血せんけつで描いたような○○が、二百万の市民を、ことごとく緊張の天頂てっぺんへ、さらいあげた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「あっ、怪我をした!」チョコレート色の絹の靴下は、見るも無慙むざんに斜に斬れ、その下からあらわに出た白いすねから、すーっと鮮血せんけつが流れだした。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
柿丘秋郎には、普通の眼には見えない胸の奥底おくそこがハッキリ見えた。そのうちにも、あとからあとへと激しいせきに襲われそのたびにドッドッと、鮮血せんけつを吐き散らした。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あわや第三の犠牲となって床の上を鮮血せんけつよごすかと思われたその刹那!
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あのとき、電灯が一度消えて、二度目についたときには、トラ十のすがたはなく、卓上は鮮血せんけつでそまっていた。それから間もなく、雷洋丸は爆沈し、彼はもう少しで、命を失うところだったのだ。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
川内警部の両手は、鮮血せんけつでまっ赤だった。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)