髯面ひげづら)” の例文
クリストフはそのカルタゴの偶像みたいな髯面ひげづらが戸口に現われるのを見ると、いつもまっ先に我慢しかねるような様子をするのだった。
すると老浮浪者は、ごそごそする髯面ひげづらを左右にふった。道夫はそれを見ると、さっきからこらえていた憤慨ふんがいを一時に爆発させて
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
随分怜悧りこう芸妓げいしゃでも、い加減に年を取った髯面ひげづら野郎でも、相手にせずに其処へ坐らせて置いて少し上品な談話でも仕て居ると
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この切支丹キリシタン文化の花園に教育された小ましゃくれた美少年を見ながら、その親の伊東義益という男の、我武者がむしゃ髯面ひげづらを聯想したからである。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……年増女としまおんなは、ボール紙の王冠を落したのを気付かぬまま、威張ってあるきまわり……それを拝んでいた髯面ひげづらの大男は、拝みくたびれたかして
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
程もあらせず、……廊下を急いで、もっとも授業中の遠慮、しずかに教員控所の板戸の前へ敷居越に髯面ひげづら……というがあごほおなどに貯えたわけではない。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よしんば、ちっとやそっと、何か云ったって小供じゃありませんか、髯面ひげづら大僧おおぞうの癖にしかも教師じゃありませんか
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其の日私は彼に悪魔除けのメレックと称する髯面ひげづら男の像を作って来るようにいいつけた。二三日して老人の持って来たものを見ると、仲々巧く出来ている。
南島譚:03 雞 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その内に未醒みせい画伯の巨大なる躯幹くかんがノッソリ現われると、間もなく吉岡将軍の髯面ひげづらがヌッと出て来る。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
四十年配の少し世の中を茶にしたような髯面ひげづらが、それでも慇懃いんぎんにガラッ八の前へ小腰を屈めました。
それが人に化けたような乱髪、髯面ひげづら、毛むくじゃらの手、扮装いでたちは黒紋付の垢染あかじみたのに裁付袴たっつけばかま
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
『来た、来た。』と、背の低い駅夫が叫んだので、フオームはにはかに色めいた。も一人の髯面ひげづらの駅夫は、中に人のゐない改札口へ行つて、『来ましたよウ。』と怒鳴つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
わめき立てる髯面ひげづらの男は、二人のうちでつまらぬほうの男であるとわかった。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
金鉱が発見されてからは、成金なりきんを夢見る山師たちが、鶴嘴つるはしをかついで、ほうほうたる髯面ひげづらを炎熱にさらして、野鼠の群のように通行したところで、今では御伽話おとぎばなしか、英雄譚えいゆうたんの古い舞台になっている。
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
さしもの遊民どもが手出しができないのみならず、あいた口がふさがらないのは、そのれっぷりの乱暴と迅速とのみならず、六尺豊かの髯面ひげづらの大男の、威勢そのものに呑まれてしまったからです。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこへ一人、髯面ひげづらの男が、見物人を掻き分けて出て行った。
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
するとある折、綽名あだなをバテレンとも神父サンとも呼ぶ髯面ひげづらの老工員が、ぼくを上眼うわめごしでジロと見、「よしな。おめえは」と、ぼくを睨んだ。
この光景ありさまに、驚いたか、湯殿口に立った髯面ひげづらの紳士が、絽羽織ろばおりすそあおって、庭を切ってげるのに心着いて、屋根から飜然ひらり……と飛んだと言います。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
相手は、ぎょっとして道夫の顔をあおいだ。道夫はそのとき老人が髯面ひげづらに色眼鏡をかけているのを見て取った。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
書き損ねの達磨だるまのような髯面ひげづらゆがめて、銅六はニヤリニヤリと笑うのです。
かたわらから吉岡信敬将軍、髯面ひげづら突出つきだして
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
「大きゅうなられたな。木下家の奥に仕えていると聞いたが、早いものよ。わしが手に抱いて頬ずりすると、この髯面ひげづらを痛がって、顔を掻いたりしたものじゃが……」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
変哲な法服と、髯面ひげづらが紛れもありません。
と、にわかに、せきこんで、髯面ひげづらを突き出した。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長柄ながえを持った髯面ひげづらの郎党が
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)