飢渇きかつ)” の例文
その後拙者、先生の家に客となり、半年教授を受けました。先生の性質、草木を愛することは、飢渇きかつして飲食を求むるよりもたしなみます。
禾花媒助法之説 (新字新仮名) / 津田仙(著)
糧食の道、水の手の落口も、たれてしまった。城中の兵は、眼に領内の焦土をながめ、身のまわりには、飢渇きかつか死の影しか見られなかった。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気が狂いそうな激しい飢渇きかつ。それは、いかなる苦難をも克服しようとする執拗な意力の下でガッチリと圧し殺されていた。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
飢渇きかつを忍んで行けば、子細なく還られるが、ここの土地の物をむやみに食うと、還られなくなるかも知れませんぞ」
鳥もけものも、みな飢ゑ死にぢゃ人もばたばた倒れたぢゃ。もう炎天と飢渇きかつために人にも鳥にも、親兄弟の見さかひなく、この世からなる餓鬼道がきだうぢゃ。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
と同時に、倭文子にあいたいという心が、はげしい飢渇きかつのように彼の心をおそった。彼は葉山へ行って、軒ごとに倭文子のありかを探したいとさえ思った。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そもそも時代の神学思想に反抗して、別にわが魂の飢渇きかつやすに足るべき神を見出さんとする苦闘はかならずしもヨブに限らない、他にも類例が多いのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
しかし人生の常事であっても、悲しいことは悲しい、飢渇きかつは人間の自然であっても、飢渇は飢渇である。
我が子の死 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
それは、きて以来一滴も口にしない、おそろしい飢渇きかつから救われたからだ。カークが砂川サンド・リヴァの下の粘土層のうえが、地下流だというのをやっと思いだしたからである。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そこへ一時的の雷雨にしろ、飢渇きかつと疲労とに弱っているところを叩かれる身はつらいことであった。
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこには驚ろきと喜びがあった。一種の飢渇きかつがあった。つかみかかろうとする慾望の力があった。そうしてその驚ろきも喜びも、飢渇も慾望も、一々しんその物の発現であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
老人たちからケガヅ(津軽では、凶作の事をケガヅと言ふ。飢渇きかつの訛りかも知れない。)
津軽 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
里の小犬が飢渇きかつの哀れは我が一飯を分けてもの心、さりとは世上に敵をもうけて憎まれ者の居處なしに成らんとは知らざりし、今さら世上に媚をうりて初一念の貫ぬかるゝとも
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
つとむるやとたづねられ喜兵衞は組頭くみかしら勘右衞門は百姓總代そうだいの趣き申立つる越前守殿汝等なんぢら知らざれば今憑司の申立はいつはりと相見える傳吉は廿年來行衞ゆくゑ知れざる叔母を連歸つれかへ飢渇きかつを救ひ從弟梅を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
雪中の飢渇きかつ しかしこれから引き還してキャンチュを渡って向うの方に行けばまたアルチュ・ラマの居った方向に出られるに違いない。あの人は余り他の遊牧民のごとくに諸所方々に行かない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ケカチは飢渇きかつの字音から出来た語で、東日本は一帯に凶年のことを意味している。ケカチの年ばかり多くこの鳥が出るわけはないから、単にこの鳥をその前兆として忌み怖れたのが起りかと思う。
明らさまに打明け——より高尚な價値ある生活に對する私の飢渇きかつを説明し——私の決心(いや、この言葉ではなまぬるい)私の誠實なよき愛情を傾けたいといふ私の止み難き欲念を示すべきであつた。
我は其処そこに、粛索せうさく飢渇きかつとの苦を続く。
失楽 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
飢渇きかつ癒えむすべなし。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
鳥もけものも、みなえ死にじゃ人もばたばたたおれたじゃ。もう炎天えんてん飢渇きかつために人にも鳥にも、親兄弟の見さかいなく、この世からなる餓鬼道がきどうじゃ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
猪汁ししじるのにおいや、この家の暖かい火の気につつまれると、武蔵の飢渇きかつは、もう一ときもしのべなくなった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これから、じぶんたちがどんな破天荒なことをやろうとしているのか、まるっきり感じていないふうだった。予測し難い数々の危険。飢餓。飢渇きかつ。圧死。窒息。大負傷。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
あたかも飢渇きかつおおかみの如く、私の詩の勉強などはてんで認めず、また私の詩の友人ひとりひとりに対する蔭口は猛烈をきわめ、まあ俗に言うしっかり者みたいな一面がありまして
男女同権 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そこへの輸送路は夏以来すべて遮断しゃだんしたので、城中の飢渇きかつは想像に余りあるものがある。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「したがなまじな使いでは不安であるぞ。久しい飢渇きかつにおかれた人間が、ふと里へ出れば、見る物、食う物、無性な欲にそそられることだろう。ふと心変りなどするような者ではの」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういわれて、武蔵は初めて飢渇きかつを思い出した。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)