須弥壇しゅみだん)” の例文
旧字:須彌壇
荒廃したほの暗い金堂の須弥壇しゅみだん上に、結跏趺坐けっかふざする堂々八尺四寸の金銅坐像ざぞうであるが、私は何よりもまずその艶々つやつやした深い光沢に驚く。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
向うのきざはしを、木魚があがる。あとへ続くと、須弥壇しゅみだんも仏具も何もない。白布をおおうた台に、経机を据えて、その上に黒塗の御廚子があった。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蝋燭の数は増されて、須弥壇しゅみだんはかがやくばかりに明るくなった。阿弥陀如来の尊像はくすぶるばかりの香りの煙りにつつまれた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
須弥壇しゅみだんの左右に立っている二本ずつの太い円柱は、中央の高い天井をささえながら、堂内の空気の一切の動揺を押えている。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
また足を踏み締めて、やっと須弥壇しゅみだんの方へ行くと、幸いなことに百匁蝋燭ひゃくめろうそくのつけ残りが真鍮しんちゅうの高い燭台に残っていたから
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
須弥壇しゅみだんへ駈け上ると大日如来が転覆ひっくりかえる。お位牌はばた/\落ちて参る。がら/\どんと云う騒ぎ。庄吉は無闇に本堂の縁の下へ這込みます。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
須弥壇しゅみだんの横からどんどん奥へぬけると、かって知ったもののように、がらがらとそこの網戸をあけながら位牌堂いはいどうの中へはいって、ぴたりとまた戸を締めきりました。
だらしなく寝そべったり、やかましく話したり笑ったりしていたが、律之助が入っていって須弥壇しゅみだんの脇に坐ると、かれらも静かになり、こっちへ向いて坐り直した。
しじみ河岸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
少し汚点しみになった跡が今でも判りますが、押入にも、納戸なんどにも、床下にも、天井裏にも、須弥壇しゅみだんの下にも、位牌堂いはいどうにも、へっついの下にも、千両箱などは影も形もありません。
丑満うしみつすぎには屹度きっと出て来るというこの寺をさ——ここの須弥壇しゅみだんの下の隠し穴は、女たちを絞め殺して、生き埋にほうり込んだあととかで、そりゃあ、陰気で鬱陶うっとうしい所だが
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そのうち読経どきょうの切れ目へ来ると、校長の佐佐木中将はおもむろに少佐の寝棺ねがんの前へ進んだ。白い綸子りんずおおわれたかんはちょうど須弥壇しゅみだんを正面にして本堂の入り口に安置してある。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
せまい、ほの暗い、須弥壇しゅみだんの上に、聖観音の光背こうはいまでが金色こんじきの蜘蛛の巣みたいに仰がれる。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なぜならばそのロボン・リンボチェというものは、悪魔の僧侶と姿を変えて真実仏教をみだすという大罪悪人であるからです。その祀ってある須弥壇しゅみだんが下に一つの幕が張ってある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
燈明皿とうみょうざら、燭台、花瓶、木刻金色もっこくこんじきの蓮華をはじめ、須弥壇しゅみだん、経机、賽銭箱さいせんばこなどの金具が、名の知れぬ昆虫のように輝いて、その数々の仏具の間に、何かしら恐ろしい怪物、たとえば巨大な蝙蝠こうもり
死体蝋燭 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
ふたりは、はっとなって須弥壇しゅみだんの横へ身を隠すと、怪しみながら近づいた影を見すかしました。
この須弥壇しゅみだんを左に、一架いっかを高く設けて、ここに、紺紙金泥こんしきんでいの一巻を半ば開いて捧げてある。見返しは金泥銀泥きんでいぎんでいで、本経ほんきょうの図解を描く。……清麗巧緻せいれいこうちにしてかつ神秘である。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
須弥壇しゅみだんを掻き廻してみたり、心あたりの場所を一々探していたが、それがどうも見付からない。
蜘蛛くもの巣を分けながらちょうど須弥壇しゅみだんの下あたりのところへ来て見ると、いいあんばいに囲いになって身を置くようなところが出来ていましたから、そこへ荷物をおろして
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、須弥壇しゅみだんのある一室には、いつものように、上人を囲んで夜語りを聞こうとする百姓たちが、もう八、九名つめかけていたが、柿岡の者が帰ってゆくと、すぐ親鸞を囲んで
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まるで、明るみの中を歩くように、雑多にころがっている、仏具や、金仏の間を、巧みに趾先あしさきさぐりに通り抜けて、近づいたのが、須弥壇しゅみだんの前——抹香臭まっこうくささ、かび臭さが鼻をつ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
七日まえに脇屋家へ来てから、口をきくのはそれが初めてであった。僧たちはすでに去ったが、本堂の須弥壇しゅみだんには灯が明るく、大きな香炉からは、香の煙がまだ濃くたちのぼっていた。
初夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
Z君に言われて、横に長い須弥壇しゅみだんの前の金具をなるほどおもしろいと思った。仏前に一つずつ置いてある手燭てしょくのような格好の木塊に画かれた画もおもしろかった。色の白い地蔵様もいい作だと思った。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
でん! と公卿の体は内陣の床にたたき捨てられ、同時に彼の手から躍った火の鞠が一条の炎の線を曳いたままはるか須弥壇しゅみだん礼座らいざの辺までビユッと火叫ひたけびしながら飛んで行った。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何とは知らず、彼は幾たびか溜息をついて、酔ったような足どりで本堂の方へゆくと、昼でも薄暗い須弥壇しゅみだんの奥には蝋燭の火が微かにゆらめいて、香の煙りがそこともなしに立ち迷っていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この柱が、須弥壇しゅみだん四隅しぐうにある、まことに天上の柱である。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
俊恵は本堂の須弥壇しゅみだんの前に立っていた。
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
むしろ、苦患くげんを生きてゆかねばならぬ親こそ、ごうの深い者なのだろう。……と思って、須弥壇しゅみだんを仰ぐと、金色の聖観音しょうかんのんの御手に、亡きわが子は、抱きとられているかとも見えてくる。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三人はそれから本堂にのぼると、狭いながらも正面には型のごとくに須弥壇しゅみだんが設けられて、ひと通りの仏具は整っていた。しかもそこらはほこりだらけで、大きい鼠が人の足音におどろいて逃げ去った。