隠見いんけん)” の例文
旧字:隱見
加茂川の崖にって、庭の木の間から東山の隠見いんけんされる水西荘、一昨年おととしの冬至、二百三十金で買った、山陽が自慢の家だった。
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長崎の山々は深緑を畳み、その間に唐風からふう堂寺台閣どうじだいかくがチラホラと隠見いんけんする。右手の丘山おかやま斜面なぞえには聖福寺せいふくじ崇徳寺すうとくじの唐瓦。
九十九折つづらおりのような形、流は五尺、三尺、一間ばかりずつ上流の方がだんだん遠く、飛々とびとびに岩をかがったように隠見いんけんして、いずれも月光を浴びた、銀のよろいの姿
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
右方にはセントアーン山高くそびえ、左方にはボウフナルト湾のきわまるところに、参差しんしとして白雪が隠見いんけんしている。これはかつて富士男が希望湾から望み見た、白点であった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
最高楼から先刻通つて来た大椰子林やしりんを越えて市街、港内、対岸の島を眼下に収め、左右両翼をひらいた山の樹間このまに洋人のホテルや住宅の隠見いんけんするのを眺めながら、卓を囲んで涼をれた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
水狐族と呼ばれる巫女の一団が、他人ひとを雑えず住んでいる神宮寺村の丘や林などあるいは遠くあるいは近く、山に添ったり水に傾いたり、朝霧の中に隠見いんけんして、南から西へ延びている。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それは最も新しい式の隠見いんけん砲台であった。遠方から見れば、芝生の大堤防であった。が、内部で軽く電気ボタンを押すと、三つの砲門が一種の唸りを立てながら、堂々たる姿を地上に現すのであった。
ゼラール中尉 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
小供のうち花の咲いた、葉のついた木瓜ぼけを切って、面白く枝振えだぶりを作って、筆架ひつかをこしらえた事がある。それへ二銭五厘の水筆すいひつを立てかけて、白い穂が花と葉の間から、隠見いんけんするのを机へせて楽んだ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その一つの小高みに閑雅かんがな古典的の堂宇どうう隠見いんけんする。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
川上かはかみ下流かりうえぬが、むかふの岩山いはやま九十九折つゞらをれのやうなかたちながれは五しやく、三しやく、一けんばかりづゝ上流じやうりうはう段々だん/″\とほく、飛々とび/″\いはをかゞつたやうに隠見いんけんして、いづれも月光げつくわうびた、ぎんよろひ姿すがた
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この日の午後一時にサルヂニアとコルシカの海峡を通つた。コルシカ島の禿げた石山いしやま汐煙しほけむりの中に白く隠見いんけんして居たのはいい感じであつた。米国の一宣教師は十二歳の息子に奈破侖ナポレオンの話を聞かせて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)