鑵詰かんづめ)” の例文
勝手口を開けてみると、びた鑵詰かんづめのかんからがゴロゴロ散らかっていて、座敷の畳が泥で汚れていた。昼間の空家は淋しいものだ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
クラムベルは山桃のような実ですが生ならばやはり煮てセリー酒を少し加えますし、鑵詰かんづめのゼリーならばそのまま裏漉しにしてもいいのです。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それ等は四つの主要部分に分類することが出来た——食いたい時の用意として鮭の鑵詰かんづめ、まさかの場合の用意として装填された何挺かの短銃ピストル
その他は誰一人見たことも聞いたこともない鑵詰かんづめみたようなものばかりを、寄ってたかってお美味いしそうにパクついていた。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
白粉おしろいや香水も売っていて、鑵詰かんづめだの、石鹸箱はぴかぴかするけど、じめじめとした、陰気な、あれかあね。」
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いつも鑵詰かんづめばかり買うのみならず、シャツや上着もボタンの取れたのを着ているのを見て、女はいよいよわたくしをアパート住いの独者ひとりものと推定したのである。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
涯知はてしれぬ田野、人も通わぬ密林、広大なる漁場、製材工場、鰹節かつおぶし工場、各種の鑵詰かんづめ工場、其他半ば菰田家の投資になる様々の事業を巡視して、今更らながら
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
鮭の鑵詰かんづめを食う日で、すなわちその鑵詰の広告のようなものと判断された。そうしてそれが当日行われたいわゆる「節約デー」にちなんだものだという事に気が付いた。
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それから店へ行っては、鑵詰かんづめを三つと、白砂糖を一袋と赤いレザーの緒のついた麻裏あさうらを一足、すばやく風呂敷にくるんで、たもとの影にかくすようにして私をつれて家を出た。
肉体化された思想というものは今日では益々まれになった。現代人は、思想でなく思想の鑵詰かんづめを食って生きているようにみうけられる。国産の配給品もあれば、外国製のもある。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
嘉七は、自分のほうの蒲団は、まくりあげて、テエブルのまえにあぐらをかき、火鉢にしがみつきながら、お酒を呑んだ。さかなは、鑵詰かんづめかにと、干椎茸ほししいたけであった。林檎りんごもあった。
姥捨 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その塵芥車がやっと私の背後を通り過ぎたらしいので何気なにげなくちらりとそれへ目をやると、その箱車のなかには、鑵詰かんづめの鑵やら、とうもろこしの皮やら、英字新聞の黄ばんだのやら
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その時、自分は馬に乗るどころでなく、一家を構える力もなく、下宿屋の二階にくすぶって、常に懐中の乏しさに難渋なんじゅうし、朝夕あさゆう満員の電車にいわし鑵詰かんづめの姿をして乗らねばならぬ身の上だった。
大人の眼と子供の眼 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
その夕方、米は昨日見付けたかしわ根株ねかぶの蜂の巣を遂にたたこわして帰って来た。そこへ母が奥から出て来て魚屋の通帳を彼に渡して牛肉の鑵詰かんづめを買って来いと命じた。米は母の顔が少し赤いと思った。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
鑵詰かんづめの中へ石ころを入れて、兵隊にわしても、国家のためだと云う実業家があるじゃないか、それにくらべりゃ、姦通まおとこをつかまえて、悪いことをさせないようにするのは、たいした違いじゃないか
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「さ、これもやるよ。」彼は、パイナップルの鑵詰かんづめを取出した。
渦巻ける烏の群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
鑵詰かんづめをも一つ二つと切らせた。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
鑵詰かんづめ仏蘭西豆ふらんすまめ湯煮玉子ゆでたまごを小さく切って舌の上へ飾りに載せますが玉子が三つもあれば二十人前に沢山ですし、豆は一人前に六粒位で沢山です。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
実は此方こっちへの来がけに、途中で食麺麭しょくパン鑵詰かんづめとを買い、風呂敷へ包んでいたので、わたくしは古雑誌と古着とを一つに包み直して見たが、風呂敷がすこし小さいばかりか
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「お父さんが云わしたばい、あア、おばっさん! 戦争の時、鑵詰かんづめに石ぶち込んで、成金さなったものもあるとじゃもの、俺がとは砂粒すなつぶよか、こまかいことじゃ云うて……」
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
いろいろ互いに食通振しょくつうぶりを披瀝ひれきしたが、結局、パイナップルの鑵詰かんづめしるにまさるものはないという事になった。桃の鑵詰の汁もおいしいけど、やはり、パイナップルの汁のような爽快そうかいさが無い。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
全体なら牛乳を平たい皿へ入れて一晩ばかりおいて上の凝結かたまりを取るのだが、食品屋へ行くと鑵詰かんづめにして売っているよ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
例の通り浮いて来るアクを取りながら弱い火で煮まして、別に仏蘭西豆の鑵詰かんづめ五つほどをつゆともに裏漉うらごしに致します。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
第六十四 あんずのゼリー 生の杏は煮てその汁ともに裏漉しにします。鑵詰かんづめのものはそのまま汁ともに裏漉しにします。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あるいは鑵詰かんづめいわしの皮と骨をって挟んでも出来ます。ハムのサンドウィッチは今のようにパンへバターと芥子と塩を塗ってザット湯煮ゆでたハムを挟むのです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
第十六 豌豆えんどう飯 は生の仏蘭西豆ふらんすまめかあるいは鑵詰かんづめのものかあるいはく若い日本の青豌豆を三、四合ばかり一升のお米へ混ぜて塩で御飯へ味を付けて炊きます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
○赤茄子スープは夏ならば生の物、冬ならば鑵詰かんづめの物を四十分間煮てバターを交ぜ、曹達そうだを極く少し入れよく掻廻し別にスープかあるいは牛乳を沸してこの中へ注ぎ込むなり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
斤入きんいりか四斤入の鑵詰かんづめになっていて私の使いました中では英国のモルトン製造所のが好いようです。サック入といって沢山袋入にしたのが亜米利加から来ていますが暖い時分には腐敗していけません。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)