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鐵拳
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てつけん
『それ
此拳骨でも
喰へ。』と
大膽にも
鐵拳を
車外に
突出し、
猛獸怒つて
飛付いて
來る
途端ヒヨイと
其手を
引込まして
彼の
身の
周りを
掃除するニキタは、
其度に
例の
鐵拳を
振つては、
力の
限り
彼を
打つのであるが、
此の
鈍き
動物は、
音をも
立てず、
動きをもせず、
眼の
色にも
何の
感じをも
現はさぬ。
せめての
腹愈しには、
吾鐵拳をもつて
彼の
頭に
引導渡して
呉れんと、
驅出す
袂を
夫人は
靜に
留めた。
彼は
泳がんと
爲るものゝやうに
兩手を
動かして、
誰やらの
寐臺にやう/\
取縋つた。と
又も
此時振下したニキタの
第二の
鐵拳、
背骨も
歪むかと
悶ゆる
暇もなく
打續て、
又々三
度目の
鐵拳。