銷沈しょうちん)” の例文
この言葉の間に、二人の間の殺気は、自から銷沈しょうちんした。闇太郎の姿は、静かな立ち姿に変り、武士の扇子せんすは、下げられた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
神経の支配をいっそう受ける青春時代には、激昂げっこうの時期と銷沈しょうちんの時期とが、急激な勢いで交互にいつも襲ってきた。
「猫はどうでも好いが、着物をとられたので寒くていかん」とおおい銷沈しょうちんていである。なるほど寒いはずである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが過剰になると憂鬱になったり感傷的になったり怒りっぽくなったりするし、また、過少になると意気銷沈しょうちんした不感アパシーの状態になるのでないかと思われる。
五月の唯物観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
周君のこのごろの銷沈しょうちんは、私たちが Leichnam をあまりに無雑作に取扱うので、それで医学にも
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「まあ、いいじゃないか」と相川は眉を揚げて、自分で自分の銷沈しょうちんした意気を励ますかのように見えた。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一種の正直な意気銷沈しょうちんと清い公平とをもって、すべてのことに正しい批判を下していた。彼の判断力は、ほとんど希望から分離して、超然として高く舞っていた。
その時から比べると、病気はそれほど重くも見えなかったが、元気はまるくなって頗る銷沈しょうちんしていた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
いかなる強国でも、大きな一敗をうけると、その後は当然、士気も衰え、民心を銷沈しょうちんするのが常である。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その説明書を読みおわってしまうと間もなく、彼は帰って行ったが、私はいままで、この善良な紳士がこれほどすっかり意気銷沈しょうちんしているのを見たことがなかった。
手紙の方は家庭争議の種になるし、今更もとの駄墨で描く気はなし、当分のうちは意気銷沈しょうちんしていた。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
伸子の、がらんと空虚に銷沈しょうちんしがちな心に生気をふきこむのは、素子との新たな結びつきであった。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
下妻の若侍たちは、平尾出場の噂に、仕合に出ない先からもう負けたつもりで銷沈しょうちんしている。
平馬と鶯 (新字新仮名) / 林不忘(著)
故郷で詐欺紳士として逮捕せられかかったというので、彼は確かにいささか意気銷沈しょうちんしてしまっていた——もっともある程度まで、それは当然なことだと思ってはいたのだが。
田川大作は意気銷沈しょうちんの姿であり、何事についてもほとんど発言しなくなっていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
探偵小説家の梅野十伍うめのじゅうごは、机の上に原稿用紙をべて、意気はなは銷沈しょうちんしていた。
軍用鼠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
せよ、……今、酒を追加する……小豆は意気を銷沈しょうちんせしめる。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と熊城は銷沈しょうちんしたように呟くのだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ただおのずから意気銷沈しょうちんして、ダメになり、笑う声にも力が無く、そうして、妙にひがんだりなんかしてね、ついには破れかぶれになり、男のほうから女を振る
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
精霊のごとくきよらかなふたりは、互いにすべてを語り合った、その夢想、その心酔、その歓喜、その空想、その銷沈しょうちん、遠くからいかに慕い合っていたかということ
十二とき(一昼夜)の御別行ごべつぎょう服喪ふくも)だけでも、このさい過分至極なのに、もしお体にでもさわっては一大事ですし、また、陣中どことなく銷沈しょうちんのていにもござります。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しおれた正太を見ると、何とかして三吉の方ではこの甥の銷沈しょうちんした意気を引立たせたく思った。彼はいくらかを正太の前に置いた。それがどういうつかい道の金であるとも、深くって聞かなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
アルノーは精神的銷沈しょうちんの時期にさしかかっていた。
次男は、意気銷沈しょうちんていである。かえす言葉も無く、ただ、かすかに苦笑して母のこごとを聞いている。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
なお昔のとおり快活で激烈ではあったが、その快活さも悲しみと怒りを含んでるかのように痙攣的けいれんてき峻酷しゅんこくさを帯び、その激烈さも常に一種の静かな陰鬱いんうつ銷沈しょうちんに終わった。
喪に服して意気銷沈しょうちんしている所へ押襲おしよせれば、残る呉軍を殲滅し得ることは疑いもありませぬ
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
急に正太は意気の銷沈しょうちんを感じた。叔父と一緒に引返した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
宿大臣閣下は、供奉ぐぶの随員、宮廷武官、小者など、あわせて六、七十名と共に、ごッそり、少華山の人質ひとじちとなってしまい、意気も銷沈しょうちんかゆも水も、のどに通らぬほどなしょゲかただった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どこだって、いいじゃないか。」佐伯は、先刻から意気銷沈しょうちんしている。まるで無意志の犬のように、ぶらりぶらり、だらしない歩きかたをして、私たちから少し離れて、ついて来る。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼のすべての様子は、屈従と決意と一種の雄々しい銷沈しょうちんとを示していた。
そこへ、悪来と夏侯淵かこうえんに扶けられた曹操が、馬の鞍に抱えられて帰ってきたので、全軍の士気は墓場のように銷沈しょうちんしてしまい、滅失めっしつの色深い陣営は、旗さえ朝露重たげにうなだれていた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、がいない又八の銷沈しょうちんしている姿が、他人事ひとごとならずに、眺められる。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また間には、家中の妻子や病者を見舞ったり、とかく意気銷沈しょうちんしやすい郎党たちをも励ましてまわるなど、まったくもう一度、秀吉がまだ貧乏時代であった頃の一主婦に立ちかえっているすがただった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その翌る日、呂布は少し銷沈しょうちんして劉備を城へ訪ねて来た。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)