道伴みちづれ)” の例文
自分はどうせ捨てる身だけれども、一人で捨てるより道伴みちづれがあってほしい。一人で零落おちぶれるのは二人で零落れるのよりも淋しいもんだ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どんな人間との合乗あひのりでもたかが三四十分の辛抱だから、介意かまはないが、それでも感じのいゝ、道伴みちづれであつて呉れゝばいゝと思つた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
勇美子には再従兄またいとこに当る、紳士島野氏の道伴みちづれで、護謨靴と歩を揃えながら、何たる事! 藁草履わらぞうりの擦切れたので、ほこりをはたはた。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よい道伴みちづれが見付かつて、お里が向柳原の八五郎の叔母さんの家から、遠い/\九州への旅に上つたのは、五月も半ば過ぎになつてからのことでした。
ある時、この男が紀州の道成寺にまゐつた事があつた。その折拍子を踏み/\石段を数へてゐたが、ふと立停たちどまつて、不思議さうな顔をして道伴みちづれに言つた。
その傍には道伴みちづれになって来た主婦の妹と云うわかい女と、さっきの小間使のようなじょちゅうが立っていた。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あの追放人おひはらはれ無頼漢ならずものんでゐるマンチュアに使つかひおくり、さるをとこふくめて尋常よのつねならぬ飮物のみもの彼奴あいつめにませませう、すればやがてチッバルトが冥途めいど道伴みちづれ。さうなれば其方そなたこゝろなぐさまう。
この連中と道伴みちづれになって登り一里、くだり二里を足の続く限り雲に吹かれて来たら、雨になった。時計がないんで何時なんじだか分らない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かりそめの旅の道伴みちづれでありながら、その死床に侍して、介抱をしたり、遺言を聞いてやると云ふことは、何と云ふ不思議な機縁であらうと、信一郎は思つた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
あくる日、お駒はたまった給料を受取った上、ほかに手当百両を貰い、平次とガラッ八に送られて、故郷の越後へちました。確かな道伴みちづれを見付けて、板橋から別れる時
「真理」や「道徳」は、今日まで長い間気の弱い男や、醜い女と道伴みちづれとなつたので懲々こり/″\してゐる。近頃は強い男と、美しい女と一緒でなければ滅多に尻を揚げようとはしない。
村の女はよい道伴みちづれができたと思ったので、急いで追ついて話しかけ、「此処は眼も鼻もないものが出ると云いますから、こわくてこわくて困っておりました、どうかいっしょに往ってくだされ」
(新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かりそめの旅の道伴みちづれでありながら、その死床に侍して、介抱をしたり、遺言を聞いてやると云うことは、何と云う不思議な機縁であろうと、信一郎は思った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
山路で、黒闇くらやみで、人っ子一人通らなくって、御負おまけに蝙蝠なんぞと道伴みちづれになって、いとど物騒な虚に乗じて、長蔵さんが事ありげに声をげたんである。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
出勤刻限しゆつきんこくげん電車でんしや道伴みちづれほど殺風景さつぷうけいなものはない。かはにぶらがるにしても、天鵞絨びろうどこしけるにしても、人間的にんげんてきやさしい心持こゝろもちおこつたためしいまかつてない。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
どうせ、旅行中のことだから、どんな人間との合乗でもたかが三四十分の辛抱だから、介意かまわないが、それでも感じのいゝ、道伴みちづれであってれゝばいゝと思った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その上母や親類のものから京都で買物を頼まれたのを、新しい道伴みちづれができたためつい大阪まで乗り越して、いまだに手を着けない金が余っていたのである。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たゞ乗り合はした一個の旅の道伴みちづれとして、遺言も何も、聴かなかつたことにしようかしら。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
出勤刻限の電車の道伴みちづれほど殺風景なものはない。かわにぶら下がるにしても、天鵞絨びろうどに腰を掛けるにしても、人間的なやさしい心持の起ったためしはいまだかつてない。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たゞ乗り合わした一個の旅の道伴みちづれとして、遺言も何も、聴かなかったことにしようかしら。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
したがって橋本は実に順良な道伴みちづれを得た訳で、同時に余は結構な御供を雇った事になる。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
道伴みちづれになったおじいさんに、もう少しで蜜柑をやっちまうところでしたよ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
健三は兄の道伴みちづれになるには余りに未来の希望を多く持ち過ぎた。そのくせ現在の彼もかなりにさむしいものに違なかった。その現在から順に推した未来の、当然淋しかるべき事も彼にはよく解っていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)