赭顔あからがお)” の例文
旧字:赭顏
父の筋向うにすわっていた赭顔あからがおの客が、「全く気込きごみが似ているからですね」とさもむずかしいなぞでも解くように云った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
初め、赭顔あからがお鬚面ひげづらのその容貌ようぼうを醜いと感じたおれも、次の瞬間には、彼の内からあふれ出るものに圧倒されて、容貌のことなど、すっかり忘れてしまった。
赭顔あからがおの快活らしい院長は、消毒衣の太った腹の前で、両手をやなぎの様に、シナシナと二三度振って見せて、ニコニコ笑いながら病室を出て行ってしまった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
室内にレコードを掛けて、柿丘と雪子とが相抱いて踊りはじめると、赭顔あからがおの博士は、柿丘夫人呉子さんをたすけておこして、あざやかなステップを踏むのだった。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もうどこからか聞込んだと見えて、赭顔あからがおの人の好さそうな松永博士はそう云って主任へ椅子をすすめた。
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
拝領葵はいりょうあおいの御紋服に丸の扇の紋のついた裃を着て、腰は二つ折れに曲がり、赭顔あからがお額部ひたいに皺が浪のようにうねって、頭髪は真っ白である。近藤相模守は七十七の老人だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
丸い赭顔あからがおで黒いひげ、職長の名にふさわしい一人の男が廊下の向こうから、三人のほうへ歩いてきた。
五階の窓:05 合作の五 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「僕に負けんくらい巨大おおき赭顔あからがおの、あぶらの乗り切った精力的な男だ。コイツも独身という話じゃが」
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
すると、そこに立っていた、赭顔あからがおの喰い肥った馭者が押し退けるような手真似をして、うしろのに乗れと言った。うしろのはその馬車にくらべると、馬も瘠せて小さかった。
遠野へ (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
銀色の鬢髪びんぱつかすかに震えている、ひき結んだ唇にも、しわを畳んだ赭顔あからがおにも、火桶ひおけの上にさし伸ばした拳の動きにも……老人の心を大きくった感動の色が歴然と刻まれていた。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
馬の背には、鎧櫃よろいびつ行李こうりとを振分ふりわけに附けている。そこからにこにこと赭顔あからがおに笑みをたたえて来る白髪の老武士は、陣笠をかぶり、手甲てっこう脚絆きゃはんのきびしい旅扮装たびいでたちに体をつつんでいた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赭顔あからがおなのが白い歯をき出していうようです。はあ、そんな心持がしましたの。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ええ、丸い赭顔あからがおのようでした。年ごろもやっぱり旦那くらいのものでしょう」
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
ずきだということが一寸ちょっと見ても知れる、太った赭顔あからがおの男である。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
背が高く口髭くちひげたくわえ、あぶらぎった赭顔あからがおをしていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
客のうちで赭顔あからがお恰腹かっぷくの好い男が仕手してをやる事になって、その隣の貴族院議員がわき、父は主人役で「娘」と「男」を端役はやくだと云う訳か二つ引き受けた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
首領かしらだった銀髪赭顔あからがおの老武士の腕に、ぐったりとなった弥生のからだが優しく抱かれていたのだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
各〻両手をついてしんとしていると、悠々然と上座のしとねへついて威風四辺あたりを払った人物は、赭顔あからがおの円頂に兜巾ときんを頂き、紫金襴しきんらん篠懸すずかけ白絖しろぬめの大口を穿うがって、銀造りの戒刀を横たえたまま
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私達がはいってくるのを見ると、例の赭顔あからがおの紋付がにやにや笑いかけた。
遠野へ (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
いつも赭顔あからがおをテラテラさせているという、怖るべき精力老人であった。
仲々死なぬ彼奴 (新字新仮名) / 海野十三(著)
赭顔あからがおは、でっぷりとした頬を張って
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)