豁然くわつぜん)” の例文
その内には目のさめたやうに豁然くわつぜんと悟入も出来るものであります。古来禅宗の坊さんは「啐啄そつたくの機」とか言ふことを言ひます。
文芸鑑賞講座 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
平次は豁然くわつぜんとしました。一切の不可能を取拂つた後に殘るものは、それが一應不可能に見えても、可能でなければなりません。
ふまでもく、面影おもかげ姿すがたは、古城こじやう天守てんしゆとりこつた、最惜いとをしつまのまゝ、と豁然くわつぜんとしてさとると同時どうじに、うでにはをのちからこもつて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しらみひねる事一万疋に及びし時酒屋さかや厮童こぞうが「キンライ」ふしを聞いて豁然くわつぜん大悟たいごし、茲に椽大えんだい椎実筆しひのみふでふるつあまね衆生しゆじやうため文学者ぶんがくしやきやう説解せつかいせんとす。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
人間を嘲罵する彼の心絃には触れざりしを、この際に於て豁然くわつぜん悟発して、人間に至真の存するあるをさとらしめたり。
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
しかし豁然くわつぜんとした救はれたやうな心の状態を得るのが常である。その時と今とは同じではない。
赤蛙 (新字旧仮名) / 島木健作(著)
樟の大木がおほひかぶさつて落葉の散つてある所を出拔けると豁然くわつぜんとして來る。兩方が溪谷で一條の林道は馬の背を行く樣なものだ。兩側には樅の木の板がならべて干してある。
炭焼のむすめ (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
屋敷の内外、特に人肌地藏のあたりを何遍も/\ぎ廻して、やゝたそがれる頃、漸く豁然くわつぜんとした顏になつて、矢鱈やたら欠伸あくびばかりして居るガラツ八を顧みました。
何故なぜなら、かみは、うしてやませまつて、ながれあをくらいのに、はしさかひ下流かりう一方いつぱうは、たちま豁然くわつぜんとしてかはらひらけて、いはいしもののごとくバツとばしてすごいばかりにひろる。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)