諳誦あんしょう)” の例文
まえにも何回となく言って言い馴れているような諳誦あんしょう口調であって、文章にすればいくらか熱のある言葉のようにもみえるが実際は
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
そして空気のしめりの丁度ちょうどいい日またむずかしい諳誦あんしょうでひどくつかれたつぎの日などはよくアラムハラドはみんなをつれて山へ行きました。
今日きょうも、ローズ・ブノワさんは読方よみかたならったところをちっとも間違まちがえずに諳誦あんしょうしました。それで、いいおてんをいただきました。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
そこで僧尼の資格として浄行三年、法華経諳誦あんしょうというごときことが課せられるに至った。これはいわば各人の宗教的要求を制限することである。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
彼女はき込んでる小娘のように、ごく早くやたらに読み散らしながら、つめの先で書き抜きをたどっていた。彼は諳誦あんしょうの手伝いをしてやろうと言い出した。
遠い昔の芭蕉や其角きかくの句は諳誦あんしょうしていても毎日食べる玉子はどれが新しいか古いか知らんような迂闊うかつな心掛ではどうしてこの文明世界へ進む事が出来よう。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
水戸の学問と言えば、少年時代からの彼が心をひかれたものであり、あの藤田東湖の『正気せいきの歌』なぞを好んで諳誦あんしょうしたころの心は今だに忘れられずにある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わたしが幼少の時読み馴れた「子曰詩云しのたまわくしにいう」のように、今その半句すらも諳誦あんしょうし得ないが、たった一つこの小さな事件だけは、いつもいつもわたしの眼の前に浮んで
些細な事件 (新字新仮名) / 魯迅(著)
岡田は虞初新誌ぐしょしんしが好きで、中にも大鉄椎伝だいてっついでんは全文を諳誦あんしょうすることが出来る程であった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして、何か諳誦あんしょうでもするような口調で、次のような口上を述べるのでありました。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
またかの鉄道唱歌とか、地理の諳誦あんしょうのためにされた新体詩とか、道徳や処世の教訓にされる和歌の類とかも、同様に形式上のみの韻文であって、実質上から詩というべく適切でない。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
百人一首もとびとびに諳誦あんしょうして、恋歌などを無意味なかわいい声で歌って聞かせた。清三は一から十六までの数を加減して試みてみたが、たいていはまちがいなくすらすらと答えた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「私がまだ若い時分でしたが、あれが来るたびに長良の話をして聞かせてやりました。うただけはなかなか覚えなかったのですが、何遍もくうちに、とうとう何もかも諳誦あんしょうしてしまいました」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしそう云う微妙音びみょうおんはアメリカ文明の渡来と共に、永久に穢土えどをあとにしてしまった。今も四人の所化しょけは勿論、近眼鏡きんがんきょうをかけた住職は国定教科書を諳誦あんしょうするように提婆品だいばぼんか何かを読み上げている。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私が問うのに答えてな、あの宮浜はかねて記憶のい処を、母のないだ。——優しい人の言う事は、よくよく身に染みて覚えたと見えて、まるで口移しに諳誦あんしょうをするようにここで私に告げたんだ。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家人、右の手のひらをひくい鼻の先に立てて片手拝みして、もうわかった。いつも同じ教材ゆえ、たいてい諳誦あんしょうして居ります。
創生記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
高遠たかとお藩の方に聞こえた坂本家から来た人だけに、相応な教養もあって、取って八つになる孫娘のおくめ古今集こきんしゅうの中の歌なぞを諳誦あんしょうさせているのも、このおまんだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
みんなは毎日その石でたたんだねずみいろのゆかすわって古くからの聖歌せいか諳誦あんしょうしたりちょうよりももっと大きな数まで数えたりまた数をたがいに加えたりけ合せたりするのでした。
また澄み切った楽しい心の舞踏歌タンツリードたる星のロンド、——またクリストフが朝の祈祷きとうのように諳誦あんしょうしていた自身へという悲壮な落ち着いた短詩ソンネット、などを取って来たのであった。
あなたの小説を、にっぽん一だと申して、幾度となく繰り返し繰り返し拝読して居る様子で、貴作、ロマネスクは、すでに諳誦あんしょうできる程度に修行したとか申して居たのに。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
時には『古今集』の序を諳誦あんしょうさせたり、『源氏物語』を読ませたりして、おさを持つことや庖丁ほうちょうを持つことを教えるお民とは別の意味で孫娘を導いて来たのもまたおまんだ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それが彼の畢生ひっせいの大事業であった。あたかもフランスの地方の中流人らが、オルレアンの少女の歌をすっかり諳誦あんしょうするように、彼はその辞典の綱目をことごとく諳誦し得たかもしれない。
あの『勧学篇かんがくへん』などを子供に書いてくれて、和助が七つ八つのころから諳誦あんしょうさせたのも、その半蔵だ。学芸の思慕は彼の天性に近かった。それはまた親譲りと言ってもよかった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼女は覚えてることをみな諳誦あんしょうしてみせた。彼はびっくりして言った。
常陸帯ひたちおび』を書き『回天詩史かいてんしし』を書いた藤田東湖はこの水戸をささえる主要な人物の一人ひとりとして、少年時代の半蔵の目にも映じたのである。あの『正気せいきの歌』なぞを諳誦あんしょうした時の心は変わらずにある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
歴代の年号なぞを諳誦あんしょうさせながらたたかせた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)